7-5 3人でのひととき
果奈の家へ向かう道すがら、駿は落ち着かないまま歩いていた。
隣を歩く美生が、ふとこちらを覗き込む。
「駿君、大丈夫? なんだか、ずっと考え込んでる顔してる」
思った以上に近い距離で言われ、視線を逸らす。
「そんな顔してた?」
「してた。テスト、うまくいかなかった?」
小さく首を振る。
隠すのは無理だと分かっていた。
「いつも、俺と果奈、それに美生って感じで過ごしてるでしょ……でも今日、三人で集まるってなったら、なんか変に意識しちゃって」
言いながら、自分でも何を言っているのか分からなくなる。
けれど、美生はくすりと笑った。
「変なの」
「そんなにおかしい?」
「うん。ちょっとだけ」
その笑い方は柔らかくて、責める色はない。
「気にしなくていいと思うよ。いつも通りで。そうやって細かいところまで考えちゃうの、駿君らしいし」
見透かされたようで、ほんの少し居心地が悪い。
「……そ、そうかな」
「うん」
そう言い切られると、否定できない。
自分でも気づいていない部分まで、もう知られている気がした。
しばらく歩きながら他愛もない話をしていると、美生が少し声の調子を落とした。
「そういえば、この前の勉強会のあとね。鈴木君に、映画誘われたの」
足が、わずかに止まりかける。
「『いいよ』って言ったんだけど」
そこで、少しだけ言葉が途切れる。
「私と二人でいて、楽しいのかなって、ちょっと考えちゃって」
不安そう、というより。
相手を気遣う顔だった。
美生らしいと思う。
だからこそ、返す言葉は自然に出た。
「直己なら大丈夫」
一拍置く。
「馬鹿なところはあるけどさ、人を楽しませようとするやつだし。美生が無理して何かしなくても、あいつの方から勝手に盛り上げると思う」
「親友である俺の言葉、信じてほしい」
「駿君がそこまで言うなら、少し安心した。ありがとう」
美生はほっとしたように笑う。
その笑顔を見て、ようやく息を吐いた。
果奈の家に着くと、玄関から元気な声が飛んできた。
「いらっしゃい。準備できてるよ」
「お邪魔します」
二人で声を揃える。
部屋に入り、それぞれが教材を広げる。
今日は直己はいない。
分からないところがあれば、すぐに美生に聞ける。
問題を解き進めていると、詰まった。
「美生、この問題教えてもらっていい?」
「いいよ」
美生が隣に寄る。
肩が、ほんの少し触れそうな距離。
説明の声が近い。
そのとき、視線を感じた。
顔を上げると、果奈がこちらを見ていた。
目が合うと、すぐに逸らされる。
――気のせいか。
なぜ気になったのか、自分でも分からず、問題に戻る。
だが、また別の箇所で詰まった。
「美生、もう一回いい?」
「なになに?」
さっきと同じ距離。
今度ははっきり分かった。
果奈の視線。
説明を聞きながらも、意識の一部がそちらに向いてしまう。
「果奈ちゃん、分からない問題でもあった?」
美生が気づいた。
「えっ? いや、別に……」
言葉が崩れる。
珍しく、取り繕えていない。
思わず、笑ってしまった。
「駿ったら、何笑ってんのよ」
頬がわずかに赤い。
「笑ってないって」
「絶対笑ってた」
少し強めの声。
その温度が、胸に刺さる。
「はいはい、二人とも。勉強しに来たんでしょ」
美生が間に入る。
柔らかいのに、不思議と場が収まる。
「はーい」
果奈と同時に返事をして、視線を問題集へ落とした。
それからも美生に教わる場面はあった。
けれど、もう果奈の視線は感じない。
本当に集中しているのか。
それとも、見ないようにしているのか。
確かめる勇気は、なかった。




