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7-4 前進したはずなのに

 その日の夜。


 駿は明日から始まるテストに向けて、最後の追い込みをしていた。

 問題集に視線を落としたまま、解答欄を埋めていく。


 ――集中しろ。


 そう思った矢先、スマホが震えた。


 画面に表示された名前を見て、ため息をつく。


 直己。


 こんな時間に電話をかけてくるタイプじゃない。

 出ないわけにもいかず、通話ボタンを押した。


「悪いな、テスト前日に」


「ほんとだよ。そこまでして電話してくるってことは、相当凄い話題なんだろ?」


「ま…まぁな」


 歯切れが悪い。

 その時点で、内容は大体察した。


「今日の帰り道さ、島内さんに……映画、二人で行かないかって誘った」


 一瞬、手が止まる。


「それで?」


「オッケーだった」


 胸の奥が、わずかに強く打った。


「やったじゃん」

「でもさ、ここからが本番だろ? 最終目標は告白成功だし」


「当たり前だろ」


「応援してるからな」


「おうよ」


 電話が切れる。


 静かになった部屋で、シャーペンを握り直す。

 だが、文字が頭に入ってこない。


(このまま、二人が付き合ったら――)


 想像してみる。


 直己が照れながら笑う姿は、簡単に浮かぶ。

 でも、その隣にいる美生の姿が、うまく描けない。


 当たり前みたいに、そこにいるはずだったのに。


 ページをめくる音がやけに大きく響いた。


 テスト前だ。

 余計なことを考えている場合じゃない。


 けれど、胸の奥のざわつきは消えなかった。

 



 翌朝。


 果奈と合流し、学校へ向かう。


「ふぁ〜……寝不足」


 口元に手を添えて欠伸をする仕草に、思わず笑いそうになる。


「遅くまで勉強してたの?」


「不安なとこあって。気づいたら、結構な時間だった」


 果奈の眠気を覚ます為に、一つの提案を持ちかけてみる。


「今回のテスト、勝負しない?」


「勝負?」


「勝った方が、相手の願いを何でも1つ聞く」


 果奈の目が一気に覚める。


「本当に何でも?」


「無茶過ぎるやつは駄目ってことで」


「分かった。絶対に勝ってみせるんだから」


 その表情が眩しい。


「果奈が勝ったら、何お願いするの?」


「秘密」


 意味深に笑う。

 まるで、もう願いごとが決まっていたかのように

 


 テストが終わり、帰り支度をしていると、直己が声をかけてくる。


「今回、結構いけた気がする」


「良かったな。島内さんのおかげだろ」


「あとでちゃんと礼言わないとな」


 美生との勉強会が距離を縮めるだけではなく、ちゃんと、テストにも活きていたことをを知り、自然と肩の力が抜けた。


 

 下校後、昼食を済ませ、再び出かける準備をする。


 今日は果奈の家で、美生も交えた勉強会だ。


 三人で集まるのは初めて。


 そのせいなのか分からないが、胸の奥のざわつきに、理由をつけないまま、家を出た。

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