7-1 進展とモヤモヤ
二日後の放課後。
部活を再開しようとした矢先、テスト一週間前の部活動休止期間が始まった。
タイミングがいいのか悪いのか。
駿はこの期間を使って、直己と美生の距離を少しでも縮められたらと考え、自宅での勉強会を提案していた。
並んで歩く帰り道、直己が急に立ち止まり、深々と頭を下げる。
「誕生日プレゼントも嬉しかったけどさ……それだけじゃなくて、島内さんとの勉強会まで考えてくれて。マジでありがとう」
「そんなに頭下げられても、何も出ないって」
苦笑しながら返す。
「それに今回は勉強会、ちゃんと教わってもらえよ。毎回どこかで赤点取ってるんだから、今回は回避しろ」
「大丈夫。頭脳明晰な島内さんの指導があれば、赤点なんて概念は消える」
即答する直己を見て、本当に大丈夫なのかと少し不安になる。
家に着くと、すでに美生は来ていた。
机の上には教科書とノートが整然と並び、今すぐ始められる状態だ。
「島内さん、今日はよろしくお願いします。苦手な教科ばっかなんで、たくさん教えてもらうと思いますけど」
「大丈夫。人に教えるのも、勉強になるから」
「だからって、全部任せきりになるなよ」
「分かってるって」
三人で机を囲み、それぞれ問題を解き始める。
しばらくすると、直己の手が止まり、美生が自然と隣に寄った。
「ここはね、式をこう整理すると簡単だよ」
「なるほど……次の問題も良い?」
「どれどれ……」
美生は完全に直己につきっきりだった。
自分も分からない箇所はあったが、二人の邪魔をしたくなくて、解ける問題から進める。
それでも限界が来て、意を決して声をかけた。
「直己、一瞬だけ美生に聞いてもいいか?」
「あ、悪い。教え方が分かりやすくてさ。次のとこは自分でやるから」
「じゃあ、駿君。どこ?」
そう言って、美生がこちらへ身体を寄せてくる。
直己の隣を離れたその一瞬に、なぜか申し訳なさを覚えた。
美生の説明は丁寧で、考え方の根本から教えてくれる。
まるで塾の講師みたいだ、と感心しながら聞いていると、視線を感じた。
顔を上げると、直己がこちらを見ていた。
「どうした? また分かんないところでもあったのか?」
「……いや、何でもない」
そう言いながら、直己は目を逸らす。
ほんの一瞬、笑顔が固まったように見えた。
気のせいかもしれない。
けれど、その違和感が、なぜか胸に残った。
しばらくして結が帰宅し、勉強会はお開きになる。
直己と一緒に、途中まで帰ることにした。
「今日の勉強会、どうだった?」
「正直、かなり自信ついた。同じような問題が出たら、いける気がする」
その言葉に、ひとまず安心する。
「それにさ……」
直己は少し照れたように頭を掻いた。
「勉強教わるうちに、距離も縮まった気がする。テストも頑張るけど……島内さんとも、ちゃんと向き合ってみる」
「その調子だ」
夕焼けに染まる空の下、直己の言葉はまっすぐだった。
――ただ、その背中を見送りながら、
胸のなかには、さっきの一瞬の表情が、まだ引っかかっていた。
うまくいっているはずなのに。
それでも、何かが少しだけ、ずれている気がした。




