6-8 本当の戦い
個人戦二回戦。
会場の熱気はさらに高まり、その中心で駿は強敵と向き合っていた。
相手のサーブ。
どんな球が来ても対応できるよう、構えて待つ。
次の瞬間―― 鋭い矢のようなサーブがコーナーへ突き刺さった。
すぐに足を動かし、なんとかレシーブする。
だが、返した球は甘かった。
相手は素早いフットワークでベストな位置へ入り、迷いなく強打してくる。
必死に追いかける。
しかし――次の瞬間、視界から球が消えた。
ポイントを奪われる。
(やっぱり、強い……)
荒れた呼吸を整えながら、次のサーブを待つ。
それでも心の中で何度も言い聞かせた。
(勝てる。まだ勝てる)
再び放たれたサーブ。
今度はさっきよりも良い形でレシーブできた。
相手も無理はせず、コート中央へ返す。
ラリー戦。
何度も球を打ち合い――
最後は自分のショットが相手コートに突き刺さった。
ポイント。
(ラリーに持ち込めば……)
胸の奥に、小さな自信が灯る。
(持久力なら、負けない)
暗闇の中で見つけた、唯一の光のような感覚だった。
その後も激しいラリーが続く。
一進一退の攻防。
デュースまでもつれ込んだが――
最後は押し切られ、1ゲーム目を落とした。
それでも、確かな手応えはあった。
続く次のゲーム。
今度は自分のサーブだ。
サーブを放つ。
相手の出方を探る。
だが――
相手はまたしても完璧なフットワークで球の下へ入り、強烈なレシーブを叩き込んできた。
(嘘だろ……!?)
思わず声が出そうになる。
慌てて球を追うが、一瞬の判断の遅れが命取りになった。
追いつけない。
ポイントを奪われる。
その後も流れは変わらなかった。
どんな工夫をしても、ショットは簡単に返される。
ゲームを奪われた瞬間、相手が淡々とラケットを振る姿を見てしまった。
――通用していない。
その事実が胸に突き刺さる。
気づけば試合は終盤。
相手はあと1ゲームで勝利という状況だった。
サーブを打つ前、目を閉じる。
会場には球を打つ音と選手たちの声が響いていた。
その中で――
微かに、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
目を開く。
覚悟を決める。
最後の力を振り絞り、今日一番のサーブを放った。
相手の表情が、初めて歪む。
甘い返球。
逃さない。
ラリーへ持ち込み、ライン際へ鋭く打ち込む。
ポイント。
そこから一気に流れが変わった。
ポイントを連取する。
気がつけば――
相手に1ポイントも与えず、ゲームを奪い返していた。
さっきまでの絶望が、自信へと変わる。
(いける……!)
そう自分に言い聞かせた。
だが次のゲーム。
相手のサーブはさらに威力を増していた。
レシーブが弾かれる。
(マジか……!?)
すぐに頭を切り替える。
次はしっかり返す。
コースを意識しながら打ち返す。
息が上がり、足が重くなる。
それでもラリーを続け――
ついにポイントを奪った。
だが、体力は限界に近かった。
試合は再びデュースへ。
そして――
相手がマッチポイントを握る。
次を落とせば、終わりだった。
それでも諦めるという言葉は浮かばない。
意地でサーブを返す。
だが――
打った瞬間、手に鈍い感覚が走った。
(しまった)
次の瞬間、相手は迷いなくスマッシュを振り抜いた。
「パン!」
爆発音のような音。
猛烈な速さで球が飛んでくる。
その音を聞いた瞬間、終わったと思った。
それでも――
僅かな可能性を信じ、足を動かそうとする。
だが、球は先にコートへ突き刺さった。
——試合終了
悔しさが込み上げる。
この場から逃げ出したくなる。
それでも必死に感情を押し込み、相手と握手を交わした。
コートに残り、次の試合の審判の準備をする。
その時、ふと果奈の姿が浮かんだ。
(競技は違うけど……)
果奈は、このレベルの選手と渡り合っている。
県大会どころか、地方大会の手前まで進んでいる。
(ほんとに凄いな……)
この試合で、自分の実力不足を思い知らされた。
そして同時に――
果奈の凄さも。
同じコートに立ったことはない。
それでも。
追いつけない距離だけは、はっきりと分かった。




