6-7 想いと想い
駿が県大会という高みを目指して戦っているその頃、果奈もまた、自分の目標に向かって部活の練習に励んでいた。
休憩時間になり、水分補給を終えると、ふと体育館の天井を見上げる。
上の窓から差し込む陽の光がまぶしい。
(昨日の駿の試合も、こんな天気だったな)
自然と、そんなことを思い出す。
(今頃、個人戦を頑張ってるのかな)
本当なら応援に行きたかった。
けれど、大会前の駿に言ったのは自分だ。
「私の大会よりも練習に集中しなさい」
そう言ったのだから、自分も部活を休むわけにはいかない。
(私も目標に向かって頑張るから)
胸の中でそっと呟く。
(駿も、悔いの残らない試合をしてね)
体育館の窓へ視線を向ける。
まるでそこに向かって思いを届けるように。
会場にいなくても、応援する気持ちは変わらない。
やがて休憩が終わり、コートに戻る。
「パンッ!」
ラケットがシャトルを捉える乾いた音が響いた。
いつもよりも、少しだけ強く。
その音には、自然と前に出る気持ちが乗っていた。
——その頃、大会会場では。
美生は結ちゃんと、父親である健介さんと共に試合を観戦していた。
「兄さんは、あそこで試合やってます」
結ちゃんがコートを指差す。
視線を向けると、そこには駿君の姿があった。
ちょうど試合が始まるところだった。
「あぁ、あそこか。結、見つけるの早いな」
「たまたまです」
少し不機嫌そうに答える結ちゃん。
「まぁまぁ、結ちゃん。試合始まるよ。応援しよ?」
「はーい」
そう言いながらも、結ちゃんの視線はすぐコートへ向いていた。
試合が始まる。
駿君は相手を圧倒し、次々とゲームを奪っていく。
そのプレーを見ていると、自分の胸にも自然と熱いものが込み上げてくる。
テニス部に入ったきっかけは、駿君の一言だった。
中学生の頃は、よく二人で練習場へ通った。
アドバイスをし合いながら、一緒に上手くなっていった時間。
だからこそ、自然と応援にも力が入る。
サーブが決まり、ポイントを奪う。
そして――
「駿君、あと一本で勝ちだよ!」
「本当ですか。兄さん、頑張って!」
結ちゃんも思わず声を上げていた。
普段は駿君に素っ気ないのに、こういう時は真っ直ぐ応援する。
兄想いの妹だと、微笑ましく思う。
「駿、行けるぞー!」
健介さんの声援も飛ぶ。
そして次のラリー。
相手の甘い返球が上がる。
その瞬間、駿君のラケットが振り抜かれた。
鋭いスマッシュ。
コートに突き刺さる。
試合終了だった。
「兄さん、勝ちました!」
「うん、勝ったね」
結ちゃんと一緒に喜ぶ。
だが、その横で健介さんは腕を組んだまま、黙ってコートを見つめていた。
その背中からは、期待と不安が同時に伝わってくる。
「1回戦を突破したのは立派だった。……だけど、上に行くなら、次が勝負だな」
その言葉に、結ちゃんの表情が少し曇る。
バドミントン部に所属しているからこそ、その意味が分かるからだ。
「大丈夫です。今の駿君なら、きっと勝てます」
理由を聞かれても、うまく説明できない。
それでも、さっきのプレーを見た瞬間、負ける姿がどうしても想像できなかった。
「はい!」
結ちゃんも力強く頷く。
「そうだな。勝つか負けるかなんて、やってみなきゃ分からない」
健介さんも静かに笑った。
これから迎える駿君の大一番。
勝利の女神がどちらに微笑むのかは、まだ分からない。
それでも――
(私に出来るのは、全力で応援すること)
コートを見つめながら、心の中で強く願った。
この想いが、少しでも駿に届くように。




