表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/110

6-5 悔しさをバネに

 決勝トーナメント初戦を突破したあと、駿は代表メンバーと共に次のコートへ向かっていた。



 コートに着くと、今江先生がすぐにオーダー表を見せる。


 そこに――自分の名前はなかった。


 祐希をはじめとした、上位組中心の布陣。


 この試合が県大会出場を決める大一番であることは分かっている。

 相手が県大会常連の強豪校であることも。


 勝つための最善のオーダー。


 それでも――


(出たかった)


 胸の奥がきゅっと締め付けられる。


 試合に負けた時と同じような悔しさが込み上げた。


 だが、それを表に出すわけにはいかない。


 今、自分にできることは1つだけだった。


 応援だ。


 コートの外から、祐希たちの戦いを見守る。


 声を張り上げる。


 仲間たちを鼓舞する。



 試合は、まず祐希のシングルスで1勝。


 一瞬、希望が見えた。


 だが――


 強豪校の壁は高かった。


 二戦目、三戦目と連敗。


 あとがない状況に追い込まれる。


「行けー!」

「ナイスボール!」


 声が枯れるほど応援する。


 それでも――



 四番手の試合。


 ラリーの末、相手のショットがコートラインぎりぎりに突き刺さった。


 その瞬間――


 団体戦の敗退が決まった。


 県大会出場は、叶わなかった。


 悔しさが胸に広がる。


 それでも、コートで戦った仲間たちに声をかける。


 試合後、上野高校を破ったその強豪校が優勝し、1日目の大会は終了した。



 閉会式のあと、今江先生のミーティングが始まる。


「代表メンバーだけじゃない。応援を徹底してくれた部員たちもお疲れ」


 今江先生はゆっくり周囲を見回した。


「結果は惜しくも県大会には届かなかった。だが、今日の負けは明日の個人戦に活かせるものがある筈だ」


 静かな声だったが、力がこもっていた。


「三年生はここで終わらないよう、二年生と祐希は高みを目指すのと同時に、今後行われる大会の糧にするように」


 一度言葉を区切る。


「そして代表に入れなかった者は、強い選手をよく見て学び、次の校内戦で出場を目指せ」


「はい!」


 部員たちの声が一斉に響いた。



 その後、貸切バスで学校へ戻り、家へ帰った。


「ただいま〜」


 声を出した瞬間、自分でも分かるほど疲れた声だった。


 居間へ入ると、結とお父さんがそれぞれくつろいでいた。


「兄さん、お疲れ。大会どうだったの?」


 結が振り向く。


「試合は勝てたけど……団体は県大会行けなかった」


「へぇー」


 結はあっさり頷く。


「まぁ兄さんが勝ったならいいんじゃない?」


(もう少し何かないのかよ……)


 内心で小さくツッコむ。


 するとお父さんが笑いながら口を開いた。


「駿、お疲れ」

「団体は残念だったな。でも明日の個人戦があるだろ?」


「うん」


「美生ちゃんと結と応援するからな。頑張れ」


 欲しかった言葉だった。


 胸の奥が少し軽くなる。


「よし、駿も帰ってきたし夕飯作るか」


 お父さんが立ち上がる。


「今日は願掛けでカツ丼だ」


「ほんとに!?」


 思わず声が出た。


 スタミナが付くような食べ物が食べたかったから凄くありがたい。


「明日の勝利祈願だ」


 そう言ってお父さんは笑った。



 カツ丼を食べ、風呂に入り、部屋へ戻る。


 ベッドに座り、スマホを手に取る。


 LINEの通知。


 果奈からだった。


『大会一日目お疲れ様』

『少しだけ通話してもいい?』


 画面を見た瞬間、少し疲れが軽くなる。


 すぐに返信した。


『いいよ』


 数分後、電話がかかってくる。


「改めて、大会一日目お疲れ様」


 果奈の声が聞こえた。


「ありがとう。でも……団体は県大会行けなかった」


「うん、見てた」


 果奈は少し静かに言った。


「悔しいよね」


「まぁな」


「私も団体は県大会行けなかったから」


「え?」


「個人では行けたけど、団体は負けちゃった」


 その言葉に少し驚く。


 果奈は県大会レベルの選手だ。


 自分とは見ている景色が違うと思っていた。


 でも――


「先輩たちともっと上に行きたかったな」


 その言葉を聞いて気付く。


 悔しさは同じなんだと。


「でもさ」


 果奈が少し明るい声になる。


「駿の試合、今日たくさん見れた」


「……そうなんだ」


「うん」


 少し間が空く。


「最後まで走ってたでしょ」


「まぁ」


「私、その光景見て思ったの」


 少し照れたような声。


「凄く、かっこよかった」


 胸がドクンと鳴る。


 今日の疲れが、一瞬で吹き飛ぶようだった。


「明日は部活で行けないけど」


「そっか」


「また大会あったら教えて」


 少しだけ声が小さくなる。


「応援行くから」


「分かった」

「果奈のためにも頑張る」


「私いない時も全力でやりなさい」


 優しい注意だった。


 そのあと、少し雑談をして通話は終わる。



 スマホを置いたあと、ふと思い出す。


「……あ」


 直己の誕生日だった。


 慌ててメッセージを送る。


『遅れてごめん』

『誕生日おめでとう』


 送信してから、窓を開けた。


 夜空には、無数の星。


 月が静かに光っている。


 涼しい夜風が部屋に入り、頬を撫でた。


 まるで――


 背中を押してくれる追い風のようだった。


 注意の中にも優しさが感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ