5-12 誓いと2人の夜
次の日の放課後。
駿はテニス部の部員たちと共に筋トレを中心とした練習をしていた。
◆◆◆
明日はいよいよ本番。
だからこそ今日は実戦練習ではなく、怪我防止を最優先にした調整日であったが、心の中は落ち着いていられなかった。
「大会前日に怪我しないようにする為とはいえ、実践形式の練習がしたかったな~」
腹筋をしながらぼやくと、隆二が呆れたように笑う。
「浅村の気持ちも分かるが試合前日に怪我したら、今までの練習が無駄になるだろ」
「それもそうだけど……」
頭では理解している。
理解しているのに、身体が試合を求めていた。
ラケットを握りたい。
ボールを追いたい。
それほどまでに、今は大会へ意識が向いていた。
そんな中、顧問の今江先生がやって来る。
「皆んな、筋トレお疲れ。今日の部活なんだが、後30分で切り上げようと思う。出場する部員達は明日の大会をベストな形で迎える為にこの後の時間を過ごすように」
「はい!」
部員たちの返事が響く。
俺も大きな声で返事をしながら、胸の奥が少しだけ熱くなった。
――いよいよなんだ。
何か月も積み重ねてきた練習。
悔しい敗戦。
勝てた試合。
全部をぶつける日が、明日やって来る。
その後も軽い調整を終え、部活は予定通り早めに終了した。
部室で着替えていると、隆二が声を掛けてくる。
「練習早く終わったし、たまには一緒に帰らないか?」
「うん、いいよ」
スマホを取り出し、果奈にLINEを送る。
『練習が早く切り上がったから、先に帰るね』
そして、隆二と共に帰路に着いた。
帰り道。
夕暮れの街を隆二と共に歩く。
オレンジ色の光が道路を染め、長く伸びた影が揺れている。
「明日から地区大会か、緊張するな~」
「大丈夫、いつも通りのプレーを心掛ければ、浅村なら善戦出来ると思う」
その言葉は不思議なくらい胸に響き、励まそうとしてくれているのが分かる。
だからこそ嬉しかった。
「ありがとう、少しは緊張和らいだ」
「単純だな~それで明日、早川は来るのか?」
「っ!?」
あまりにも自然なタイミングで名前が出てきたせいで、思わず変な声を出しそうになった。
「な、なんの話だよ」
「なんの話って、そのままの意味だけど」
「別にそんなの知らないし……」
「へぇ」
隆二がニヤリと笑う。
その顔を見た瞬間、墓穴を掘ったことを悟った。
「図星だな」
「だから違うって」
「違わない奴の反応じゃない」
完全に見抜かれたことを悟り、諦めたようにため息を吐く。
「大丈夫、もしも2人が仲良くしているところを見ても、何も見なかったように振る舞うから安心しろ」
「そうしてもらえると、有り難い」
「まぁとにかく、浅村は明日からの地区大会、全力で挑んで来い。生半可な試合して、負けたら許さないからな」
隆二は笑っていたけど、その奥にある悔しさも分かった。
代表に届かなかった悔しさ。
それでも仲間を応援する覚悟。
全部含めての言葉だった。
だから真っ直ぐ頷く。
「勿論」
大会に出られなかった隆二の為にも、全力で
試合に挑むことを改めて心の中で誓う。
その後、隆二と別れて家へと向かう。
家に着いて空を見上げると、さっきまで照らし続けていた夕焼けの光が雲に覆われようとしていた。
その日の夜。
翌日の大会に向けて早く寝ようと、ベッドに着いたが、なかなか寝られずにベッドで寝返りを繰り返していた。
「寝れない……」
静かな部屋の中で、明日の試合ばかりが頭に浮かんでくる。
勝てるだろうか。
緊張しないだろうか。
力を出し切れるだろうか。
そんな考えが次々と浮かび、余計に目が冴えてしまう。
すると――。
スマホの通知音が鳴り、手に取ると、画面には果奈の名前が表示されていた。
『大会頑張ってね』
たったそれだけのメッセージなのに、胸の奥がふっと温かくなる。
『ありがとう』
そう返した後、少し迷ったが、気づけば指が動いていた。
『実は緊張してなかなか寝れないんだけど、何かいい方法ある?』
既読はすぐについたが、返信が来ないまま、数分待っていると、果奈から動画のURLとメッセージが送られてくる。
『私は寝れない時、このBGMを聴きながら寝てるよ』
動画の内容は睡眠導入BGMの動画で、動画の再生ボタンを押すと、穏やかな音が流れ始める。
静かなピアノの音色。
穏やかな自然音。
部屋の空気が少し柔らかくなったような気がした。
『試してみる』
そう送ると、すぐに返信が来る。
『私も今流しているんだけど、ほんの少しだけしか聞いていないのに眠くなってきた』
その文面を読んだだけで果奈の姿が想像できる。
ベッドに横になりながらスマホを触っている果奈。
眠そうに目を擦っている果奈。
そんな姿を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれた。
『俺も眠くなってきた』
そう送信すると、既読はすぐについた。
だが返信は来ない。
一分。
二分。
三分。
待っても画面は静かなままだった。
「寝落ちしたな」
さっきまでやり取りしていたのに、急に返事が途絶えた。
きっとスマホを持ったまま眠ってしまったのだろう。
そう考えると妙に愛おしく感じ、同時に胸の奥が少しくすぐったくなった。
今、果奈も同じBGMを聴いている。
同じ時間に。
同じ音を聴きながら。
眠ろうとしている。
ただそれだけのことなのに、不思議と距離が近く感じられた。
(なんか……一緒に寝てるみたいだな)
思った瞬間、自分で恥ずかしくなる。
もちろん実際は違うけど、同じ音を共有しているだけで、果奈の存在をすぐ近くに感じられた。
少しだけ照れ笑いを浮かべながら、最後のメッセージを打つ。
『おやすみ』
そして、スマホを置いて眠りについた。
まるで意識を失うように眠りに落ち、目を覚ました時、世界はもう“勝負の朝”を迎えていた。
※ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
現在6章の改稿を行っています。改稿が終わりましたら、活動報告等にあげますので、そのタイミングで読んでいただくと、嬉しいです。気にしないよという方は先を読んでいっても大丈夫です。
この作品を最後までよろしくお願いします。




