5-11 理想の未来
二日後の放課後。
部活帰り、駿は果奈に連れられて歩いていた。
「どうしても行きたい場所って、どこ?」
「着いてからのお楽しみ」
そう言って笑う果奈は、やけに嬉しそうだった。
学校を出て少し歩く。
辿り着いたのは、近くの公園だった。
けれど――
奥の広場へ足を踏み入れた瞬間、思わず息を呑む。
ライトに照らされた紫陽花が、一面に咲き広がっていた。
青、紫、淡い桃色。
夕焼けの中で静かに揺れている。
「凄い数の紫陽花。学校の近くの公園にこんな所があるなんて知らなかった」
「去年ね、友達に連れてきてもらったの」
果奈が少し照れながら言った。
「すごく綺麗で……その時思ったんだ」
一瞬、言葉を迷う。
「もし彼氏が出来たら、一緒に来たいなって」
頬がほんのり赤い。
もう一度、紫陽花を見渡した。
「教えてくれてありがとう」
そして小さく笑う。
「果奈と来れて、嬉しい」
並んで歩く。
足音だけが静かに響く。
あることが気になり、スマホを取り出す。
「何調べてるの?」
「紫陽花の花言葉」
「どんな花言葉だった?」
画面を見ながら答える。
「色で意味違うらしい。ピンクは……強い愛情」
「白は一途な愛情」
「ロマンチックで良い意味なんだね」
「でも、青や紫色は無情や浮気っていう意味みたい…」
果奈が周囲を見回す。
けれど――
視界のほとんどを占めているのは、青と紫だった。
一瞬、沈黙が落ちた。
風が紫陽花を揺らす。
「俺は――」
「私は――」
声が重なり、止まる。
互いに顔を見て、少し笑った。
「花言葉なんて関係ない、俺達なら大丈夫」
果奈が頷く。
「うん」
その笑顔は、どの紫陽花よりも、綺麗だった。
公園を出て歩いていると、賑やかな声が聞こえてきた。
視線の先。
結婚式場の前で、新郎新婦が祝福されていた。
拍手と歓声。
白いドレスがライトに輝く。
「いいなぁ……」
果奈がぽつりと呟く。
「私もいつか、ウェディングドレス着てみたい」
思考が止まった。
気づけば――
隣に立つ果奈の姿が、白いドレスと重なっていた。
「……」
「駿? どうしたの?」
慌てて視線を逸らす。
「な、なんでもない」
そのまま、結婚式場から離れようとする。
「ちょっと先、行かないでよ」
果奈が追いつき、顔を覗かせる。
「もしかして、想像してた?」
「うん……」
観念して答える。
「彼女と結婚式見て、想像しない方が無理」
今度は果奈が顔を赤くした。
「……私も」
小さな声。
「駿がスーツ着てるところ、想像したよ……」
二人同時に視線を逸らす。
沈黙。
でも、不思議と気まずくない。
「俺、似合わなさそうだけど」
「似合うよ」
「絶対?」
即答だった。
思わず笑い合う。
将来なんて分からない。
この先もずっと隣にいるのか。
別々の道を歩くのか。
そんなことは、誰にも分からない。
それでも――
今、隣にいる。
同じ景色を見て、同じ未来を少しだけ想像している。
それだけで十分だった。
風が吹く。
紫陽花の香りが、まだ微かに残っていた。




