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6-1 臨む覚悟

 地区大会一日目の朝。


 駿はテニス部の部員たちと共に、貸切バスに揺られていた。


 窓の外を流れる景色を、ぼんやりと眺める。


 空は雲一つなく晴れているはずなのに、どこか色が鈍い。


 大会の緊張――それもある。


 だが、それだけじゃない。


(……果奈、来るんだよな)


 胸の奥が落ち着かない。


 試合で見られることには慣れているはずなのに、今日は違った。


 失敗したところを見られたくない。


 格好悪い姿は見せたくない。


 そんな感情が、じわじわと呼吸を浅くする。


 視線を外へ逃がしても、緊張は消えなかった。


「どうした浅村」


 隣から声が飛ぶ。


 隆二だった。


「今日、やけに顔固いぞ」


「なんかさ。変に緊張してしまって」


「大丈夫、浅村はいつも通りにプレーすれば、相手が本当に強い奴じゃなきゃ勝てる。そもそも、今さら何ビビってんだよ。俺と組んでる時のお前、そんな顔してないだろ」


 戦友でもあり、ダブルスのペアでもある隆二の言葉に背中を押される。


「ありがとう。それもあるけど……」


 言葉を濁す。


 隆二は一瞬だけこちらを見て、すぐ前を向いた。


「ああ。早川のことか」


「っ!」


「図星かよ」


 肩を揺らして笑う。


「別に悪いことじゃねぇだろ。観に来てもらえる相手がいるってのは」


 窓に映った自分の顔は、確かにいつもより硬かった。


「ただな」


 隆二の声色が少しだけ変わる。


「それで本調子出せずに負けたら――」


 一拍。


「ダブルス解消な」


「え」


「あと口も聞かねぇ」


「厳しくない!?」


「当たり前だろ」


 隆二の辛辣な言葉が心に突き刺さる。


「……分かった」


 自然と背筋が伸びる。


「絶対、ちゃんとやる」


「その意気だ。浅村」


 隆二が笑った。


 その一言で、不思議なくらい肩の力が抜けた。


 もう一度、窓の外を見る。


 さっきまで重く見えていた空が、少しだけ明るく感じた。



 会場に到着すると、すぐにミーティングが始まった。


 今江先生が部員たちを見渡す。


「皆んな、今日に至るまで様々な苦労があったと思う。部活で苦労した人も居れば、それ以外の面で苦労した人も居ただろう」

「三年は最後にならないよう、二年はこの大会だけではなく、新人戦に向けてのステップアップになるよう、一年は先輩達や強い選手のプレーを見て、自分に活かすように」


 一人ひとりを見る視線。


「それぞれが目標を持って、この大会に挑むこと。良いか」


「はい!」


 声が辺りに響いた。


 胸の奥で何かが切り替わる。



 開会式が終わり、各校が動き始める。


 ざわめき。

 打球音。

 歓声。


 大会特有の空気が一気に押し寄せた。


 オーダー表を確認する。


 一番手。


 名前を見た瞬間、鼓動が強くなる。


 ラケットを握る。


 掌に汗が滲んでいた。


 深く息を吸う。


 吐く。


(大丈夫)


 白線の向こう側を見る。


 もう逃げ場はない。


 様々な思いを胸に、コートへ足を踏み出した。


 勝負が、始まる。

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