5-9 力になる
その日の夜。
駿は自室のベッドに寝転び、天井をぼんやり見上げていた。
果奈の結果が頭から離れない。
あと一歩だった。
画面越しに送られてきた言葉は前向きだったけれど、きっと悔しかったはずだ。
(……俺も、負けてられないな)
来週は自分の大会だ。
自然と指先に力が入る。
その時、スマホが震えた。
直己からの着信だった。
「もしもし」
「暇だったから電話したんだけど、大丈夫だったか?」
「うん。ちょうど何もしてなかった」
他愛ないゲームの話が続く。
話し合っているうちに、話題はいつの間にか変わっていた。
「……次さ、島内さんと買い物行くのいつなんだ?」
妙に慎重な声だった。
「火曜だったと思うけど」
「なるほどね……」
分かりやすい反応すぎて、思わず笑った。
「そんな行きたいなら、美生に聞いてみるよ」
「マジで!?」
突然の大声に思わずスマホを離す。
「いきなり、大きい声出すなよ。鼓膜死にかけたじゃんか」
「わりぃ、わりぃ」
苦笑しながら美生にLINEを送る。
『次の買い物、直己と二人でいい?』
再び直己との通話に戻る。
「LINE、送っといたよ」
「ありがとう、恩に着る」
「直己には早く彼女出来て欲しいし」
その直後、返信が来た。
『いいよ。駿君大会前だしね』
胸の奥が少しだけ痛む。
『ありがとう』
短く返した。
「美生、いいって」
「よっしゃ!!」
「だから声でかいって」
「ごめんごめん。とにかく、頑張ってくるよ」
「応援してるから頑張ってこい」
「おうよ」
笑いながら通話は続き、気づけば日付が変わる直前だった。
翌日の昼休み。
いつもの倉庫裏。
果奈と座っていた。
「やっぱり強かったな、あの人」
果奈が空を見上げる。
「どれだけ攻めても崩れなくてさ。甘くなった瞬間、全部決められる感じだった」
「でも一ゲーム取ったんでしょ?なら、全く歯が立たなかったって訳でも無いんじゃないの?」
「うん。でも多分、戦い方見られてただけ」
苦笑する。
「駿は様子見とかする?」
「テニスはゲーム短いから、様子見ながら全力、って感じかな」
「なるほどね」
「あまり強い相手と戦ったことがないから分からないだけで、実際は、相手の様子を伺う目的でそうする人も居れば、それ以外の目的でそうする人も居ると思う」
競技は違う。
それでも通じる部分がある。
戦術の話をしている時間は、不思議と心地よかった。
少し沈黙が落ちる。
「……地方大会行くには、ああいう人に勝たないとなんだよね」
声がわずかに弱くなる。
視線が落ちた。
少し迷って――
手を伸ばした。
そっと、果奈の手を握る。
「大丈夫」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。
「果奈なら行けるって、信じてる」
「……!」
果奈が慌てて手を離す。
「あ、ごめん! 嫌とかじゃなくて、びっくりして……」
「いや、俺こそ急にごめん」
一瞬、気まずい沈黙。
けれど。
「……駿」
「ん?」
「手、出して」
言われるまま差し出す。
果奈は少しだけ顔を赤くしながら――
今度は自分から握った。
「これで大丈夫」
「え?」
「自信、出た」
小さく笑う。
「ありがとう」
握られた手の温もりが、じんわり伝わる。
「……俺、何もしてないけど」
「駿にとってはね」
指先が少しだけ力を込めた。
「私にとっては、大きいの」
昼休み終了のチャイムが鳴る。
教室に戻っても。
ノートを開いても。
教師の声は遠かった。
黒板の文字よりも――
さっき触れた温もりの方が、はっきり残っていた。




