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5-7 約束と決意

 同じ日の夜。


 駿はベッドに寝転びながら、スマホを耳に当てていた。


「明日、県大会だったね」


「うん」


 少しだけ弾んだ声。


「本当はさ、部活サボってでも見に行きたいんだけど」


 天井を見上げる。


「さすがに大会前だから流石に行けないな」


 一瞬の沈黙。


 そして――


「もし部活サボって来たら、駿と別れるから」


「え、そこまで?」


 思わず起き上がる。


「当たり前でしょ」


 けれど声に棘は無かった


『その代わり――ちゃんと練習行ったら、駿の大会、応援行く』


「ほんとに?」


 勢いよく拳を握る。


「守れたらね」


「絶対守る」


「私関係なく頑張りなさい」


「……はい」


 電話越しに小さな笑い声が聞こえた。


「明日早いし、もう寝るね」


「うん。大会、頑張って」


「ありがと。おやすみ」


「おやすみ」


 通話が切れる。


 静かになった部屋で、スマホの画面だけが光っていた。


 通話履歴を、もう一度だけ見る。


 親指が無意識に画面をなぞる。


(……見に行きたかったな)


 呟きは部屋に溶けた。


 スマホを伏せ、立ち上がる。


 バッグを開き、ラケットを取り出す。


 軽く握る。


(来週、絶対見に来るんだよな)


 自然と力が入った。


「……負けてられるか」


 小さく呟き、準備を始めた。




 ——翌朝。


 果奈はお父さんの早川陽介(はやかわ ようすけ)の運転する車に揺られていた。


 窓の外を流れる景色。


 晴れているはずなのに、どこか色が薄く見える。


 手のひらを膝の上で握る。


 指先が冷たい。


「……緊張してるのか?」


 前を向いたまま、お父さんが言った。


「え?」


「さっきからずっと外ばっか見てるからさ」


 図星だった。


「……ちょっとだけ。心配かけてごめんね」


 正直に答える。


「そんなことで謝らなくて良いよ。にしても、県大会だもんな」


 信号で車が止まる。


「二年でここまで来たのは凄いと思うよ」


「でも、決定戦の次の試合、負けちゃったし」


「それでもだよ」


 お父さんは笑った。


「お父さんなんて、高校の卓球部で地区3回戦が最高だった」


「急に自虐?」


「比較対象が必要だろ」


 思わず笑いがこぼれる。


 少しだけ、肩の力が抜けた。


 車が再び走り出す。


「……今回さ」


 前を見たまま言う。


「絶対に達成したい目標があるんだ」


「目標?」


「地方大会出場」


 お父さんの眉がわずかに動いた。


「……簡単な場所じゃないな」


「うん」


「正直に言うと、あそこは、種目に特化した人ですら行けるか、行けないのかの土俵だから、今の実力だと厳しいと思う」

  

 上の大会に行く難しさを知ってるこその言葉。

 胸が小さく痛む。


 けれど――続きがあった。


「でも」


 お父さんの声が柔らかくなる。


「挑もうとしてる時点で、果奈はもう成長してる」


 ハンドルを握る手が少し強くなる。


「届くかどうかじゃない。全力で届きに行くんだよ」

お父さん達も全力でサポートするからさ」


 胸の奥に溜まっていたものが、少しずつほどけていく。


「……うん」


 静かに頷く。


 頭の中に浮かぶのは――


 昨夜の声。


『大会、頑張れ』


 膝の上で握った拳が震える。


 怖い。


 負けるかもしれない。


 でも。


 ゆっくり目を閉じ、深呼吸する。


(見てなくても)


(ちゃんと、届くように)



 車が会場の駐車場へ入った。


 車の扉を開ける。


 朝の空気が肺に流れ込む。


 ラケットバッグを背負い直す。


 震えは、もう止まっていた。

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