5-5 負けてられない
週末。
来週に控えた地区大会に向け、駿は追い込み練習に参加していた。
「……もう一本、お願いします」
息が上がる。
喉が焼けるように痛い。
「よし、行くぞ」
先輩のサーブが鋭くコートの隅へ落ちた。
反射的に踏み込む。
返した瞬間、反対側からすぐに次の球が飛んできた。
逆サイド。
さらにもう一歩。
足が追いつかない。
それでも無理やり身体を伸ばし、ラケットを差し出す。
打球はかろうじて当たったが――ラインを越えていった。
「っはぁ……!」
膝に手をつく。
肺が空気を求めて暴れていた。
二対一ラリー。
休む暇なく左右へ振られ続けるこの練習は、ほとんど走り込みと変わらない。
「浅村、交代」
「……はい」
日陰へ移動し、水を流し込む。
汗が止まらない。
「浅村先輩、お疲れ様です」
祐希が隣に座った。
「きついですね、これ」
「マジでな……シャトルランやってる気分」
笑おうとしても呼吸が整わない。
「だけど、祐希は俺よりも対応出来てるじゃん」
「そんなことないですって」
短く笑い合う。
「互いにベストを尽くそう」
「はい」
視線は自然とコートへ戻っていた。
来週は大会。
ここで止まるわけにはいかない。
練習後。
大会メンバー同士の模擬試合が始まった。
三勝二敗で迎えた相手は祐希。
「先輩。今回は負けませんから」
「望むところだ」
ラケットを握る手に力を込める。
さっきの練習で足は動いている。
前回と同じように戦えば勝てる。
そう思っていた。
――甘かった。
祐希のクロス。
読めていた。
動いたはずだった。
それでも。
ほんの半歩、遅れた。
その一瞬で体勢が崩れる。
返球が浅くなる。
次の球を叩き込まれる。
流れが、一気に向こうへ傾いた。
気付いた時には、ゲーム差は開いていた。
焦る。
追いつこうと力む。
さらにミスが増える。
そして――試合終了。
スコア以上の完敗だった。
(……こんな差、あったのか)
前回勝った記憶が頭をよぎる。
知らないうちに、「次も勝てる」と思っていた。
その油断を、祐希は一切見逃さなかった。
ラケットを握る手に、力が戻らない。
帰り道。
「浅村、お疲れ」
隆二が隣に並ぶ。
「ありがとう。はぁ〜」
「ため息なんかして、どうした?」
「祐希に呆気なく負けてしまったな〜って思って」
「あの試合か、最初、余裕あっただろ」
「……分かる?」
「ああ。でも途中から完全に飲まれてた」
図星だった。
「流石は祐希、そう簡単には勝てる相手では無いんだなって改めて感じさせられた」
悔しさが遅れて込み上げる。
大会は来週。
このままじゃ通用しない。
「でもさ」
隆二が笑う。
「気付けたならまだ間に合う」
前を見た。
「自主練、付き合ってくれ」
「最初からそのつもり」
夕焼けに伸びる影が並ぶ。
負けた。
でも――終わりじゃない。
今日の敗北で分かった。
足りないものも。
甘さも。
進むべき方向も。
来週。
同じコートに立つ時は――
もう、半歩遅れない。




