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5-4 1ヶ月記念日

 次の日の昼休み。


 駿は中庭のベンチで、果奈と並んで座っていた。


「三時間目の体育きつかった……グラウンド七周って何の罰ゲームだよ。次の日、筋肉痛確定」


「私はサッカーだったから楽しかったけど」


「ずる。俺もそっちがよかった」


「もうすぐ男女で入れ替わるでしょ。我慢我慢」


「はぁ〜、まぁ頑張るよ」


 いつもなら、ここから自然に話が続く。


 けれど今日は違った。



 沈黙。


 隣から、ちら、と視線を感じる。


 見ると、果奈がすぐ前を向いた。


 少しだけ唇を尖らせている。


(……なんかしたか、俺)


 思い当たらないまま口を開く。


「そういえばさ、月末のテスト――」


「ちゃんとやってます」


 即答だった。


 しかも少し硬い。


 完全に機嫌が悪い。


「果奈?」


「なに」


「怒ってる?」


「怒ってない」


 間髪入れず返ってくる。


 絶対怒ってるやつだった。


 どうしたものかと考えた瞬間――校内放送が流れた。


『六月十二日、木曜日。本日の放送を――』


 その日付を聞いた瞬間。


 頭の中で何かが繋がった。


(……あ)


 背筋が冷える。


 ゆっくり隣を見る。


「……今日」


 果奈は前を向いたまま言った。


「付き合って、一ヶ月」


「……ごめん」


「遅い」


 小さく返される。


 本気で拗ねているわけじゃないと分かる声だった。


「忘れてたわけじゃないんだよ。ただ気付くの遅くて」


「言い訳」


「でもさ」


 言葉を探す。


 一ヶ月前、放課後。

 震えながら想いを伝えた日のことが浮かぶ。


「俺から告白したのに、果奈がこの関係を大切にしているって知れて嬉しかった」

「勿論、この一ヶ月を大切に感じていなかった訳じゃないんだよ」


 果奈が少しだけこちらを見る。


「むしろ、毎日が早くて、気付いたらもう1ヶ月経ってた」


 少し間が空く。


「……私も」


 小さな声。


「駿がそう思っていたのを知れて、嬉しい」


 風が吹き抜ける。


「にしても、色んな事があった一か月だった」


「怖い時もあったけどね」


「ああ」


 あの日、果奈が学校に来なくなった時のことがよぎる。


 言葉にしなくても、お互い分かっていた。


「あの時は美生や直己に凄く背中を押された。二人にはほんと頭が上がらない」


「私も美生から弁当作りを教えてもらったりなどしてもらってるから、私も」


 果奈が笑う。


「でもさ」


「ん?」


「ちゃんと続いてるね、私たち」


 その言葉に、胸の奥が静かに熱くなる。


「これからも続けるよ」


 自然に言葉が出た。


 果奈は少し驚いた顔をしてから、小さく頷いた。


「……うん」


 昼休み終了のチャイムが鳴る。


 二人同時に立ち上がった。


「じゃ、戻るか」


「うん」


 歩き出そうとした瞬間。


 袖を軽く引かれた。


 振り向く。


 果奈が少し照れながら言う。


「駿が先に気付いてね」


 思わず笑った。


「努力します」


 手を振り合い、別れる。


 

 廊下を一人で歩きながら、天井を見上げた。


(……やばいな)


 思い出しただけで顔が熱くなる。


(俺より、この関係大事にしてるとか)


 深く息を吐く。


 でも――嫌じゃない。


 むしろ。


(ちゃんとしないとな)


 自然と背筋が伸びた。


 教室の扉に手をかける。


……次は絶対、俺が先に言う。

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