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5-2 恋人として、競技者として

 練習が終わり、部室で着替えを済ませた駿は、タオルで髪を拭きながら隆二の前に立った。


「なあ隆二」


「ん?」


「俺と祐希の試合の後、笑ってたけど、何か面白い事でもあった?」


 問い詰めるように言うと、隆二は視線を逸らした。


「別に笑ってねえよ。それより浅村、早川のとこ行かなくていいのか?」


 露骨な話題転換だった。


「誤魔化しても無駄だからな」


 しばらく沈黙した後、隆二が大きく息を吐く。


「……いや、だってさ。祐希の言葉に対するお前の反応、分かりやすすぎて」


「そんなに?」


「めちゃくちゃ」


 即答だった。


 思わず額を押さえる。


「マジか……」


「祐希も勘いいよな。ああいうの敏感だし。まあ、あいつも気になってる人いるっぽいけど」


「へえ……」


「で、本当に行かなくていいのか? 待たせてんだろ」


 その一言で、時計を確認した。


「やばっ」


 バッグを掴む。


「また明日!」


「ああ、頑張れよ」


 背中越しに聞こえた声に手を上げ、部室を飛び出した。



 待ち合わせ場所へ向かうと、果奈はすでに立っていた。


 少し息を切らして近づくと、果奈が振り向く。


「お疲れ。練習長引いた?」


「ちょっとね、待たせてごめん」


「ううん、大丈夫」


 いつもの調子で並んで歩き出す。


 夕方の空気が、練習後の熱をゆっくり冷ましていく。


「今日も部活疲れた〜」


 果奈が腕を大きく伸ばした。


「そういえば、県大会って今週末だったよね?」


「うん」


「見に行きたかったな」


 思わず漏れた本音に、果奈は少しだけ視線を落とす。


「駿も大会前だもん。仕方ないよ」


 そう言いながら――


「……本当は来てほしかったけど」


 小さな声が風に紛れた。


「ん? 今なんか言った?」


「な、何でもない!」


 慌てた様子に首を傾げながら、続ける。


「実はさ、今日ちょっとだけ果奈の練習見た」


「えっ!?」


 果奈の足が止まった。


「見てたの!?」


「ほんの少しだけな」


 本当は、目が離せなかった。


 跳び上がる瞬間も、スマッシュを打ち抜く姿も。


 真剣な横顔に、ただ見入っていた。


「私、真剣になると変な顔してるから……あんまり見られたくないんだけど」


 頬を赤く染める。


「そんなことなかったよ」


 即座に首を振った。


「むしろ、かっこよかった」


 一瞬、言葉が止まる。


 果奈の頬がさらに赤くなった。


 少し歩いたあと、小さく口を開く。


「……じゃあさ」


「ん?」


「駿の大会が終わって、予定空いてたら……見に来てもいいよ」


 視線は前を向いたまま。


「駿に、ちゃんとかっこいいところ見てほしいし」


「絶対行く」


 即答だった。


 果奈が小さく笑う。


「だから今週末は駄目だからね?」


「分かってるって。俺も大会近いし、練習頑張る」


「私も頑張る。駿いなくても、少しでも上目指したいし」


 並んで歩く足音が重なる。


 同じ競技者として。


 同じ大会へ向かう者として。


 隣にいる距離が、少しだけ特別に感じられた。



 果奈が一歩前を歩く。

 街灯の明かりに照らされた横顔が、少しだけ大人びて見えた。


「……今度、絶対、見に来てよね」


 振り返らずに言われたその言葉に、小さく笑う。


「約束」


 並んだ影が、ゆっくり重なる。


 その距離が、もう以前とは違っている気がした。


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