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4-9 自信と安心と…

 部活を終えた駿は家へ帰ると、茶の間へ向かった。


◆◆◆


 カレーの香りが家中に広がっていて、思わず腹が鳴りそうになるほど食欲を誘う匂いだった。


 しかし、その匂いとは正反対の空気を目にする。


「直己、落ち込んでそうだけど大丈夫か?」


 その姿を見て、一瞬胸がざわつく。


 美生と買い物をした時、関係を思ったより縮められなかったのだろう。


 そんな考えが頭をよぎる。



「はぁ……結ちゃんがまだ俺に冷たくてさ、いつになったら忘れてくれるんだよ…」


「あのことね、結も頑固なところがあるからそこまで気にしなくてもいいよ」


 そうは答えたが、美生との買い物じゃなくて、結との蟠りで落ち込んでいたのかよと、ツッコミそうになる。


「そんなことよりも美生との買い物はどうだった?」


 その瞬間、さっきまで曇っていた直己の表情が、少しだけ明るくなった。


「最初は会話が続かなかったり、会話の頻度が少なかったけど、一緒に買い物をするにつれて会話が弾むようになって、駿の家に向かう時は一度も途切れることなく会話出来た」


 いい報告が聞けて、自然と口元が緩む。


「良かったじゃん」


 心からそう思えた。


 あれほど悩んでいた親友が、一歩踏み出せた。

 

 その事実だけで嬉しかった。



「ありがとな駿、この話を持ち出してくれて。こういう機会がなかったら、ずっと島内さんとの距離を縮められないで、もがいていたと思う」


「お礼を言いたいのはこっち。今日は買い物行ってくれてありがとう」


 二人で笑い合う。


 少し前なら、お互いこんな素直な言葉は照れくさくて言えなかったかもしれない。


 それでも今は、不思議と口に出来た。



「お礼がてらじゃないけど、一つお願いいいか?」 


「いいよ」


「また島内さんと買い物する機会があったら、俺に行かせて欲しい」


 その言葉に、思わず目を丸くした。


 以前の直己なら、こんなお願いは絶対にしなかったし、好きだからこそ近付けない。


 そんな親友が、『また行かせて欲しい』と言った。


 なぜか分からないけど、自分のことのように、嬉しく感じる。

 


「流石に毎回は厳しいけど、部活が忙しくなった時はまたお願いしてもらうかも」


「ほんとに!それだけでも有難い」


 果奈と付き合うまで、何度も支えてくれたのは直己だった。


 悩んでいた時も。

 迷っていた時も。


 何度も背中を押してくれた。


 だから今度は、俺が支える番だ。


 直己の恋も、きっと実ってほしい。


 そんな願いが、胸に湧き上がっていた。



 二人で盛り上がっていると、台所から美生の声が聞こえてくる。


「夕飯出来たよー」


「分かった、今行く。俺たちも行くか」


「そうだな、島内さんカレー楽しみだな~」


「美生のカレーはめっちゃ美味いから直己が食べたらぶっ飛ぶと思うよ」


 それを聞いた直己は今日の給食のメニューがカレーだと知った小学生のように、目を輝かせる。


 そして台所へと向かった。


 


 食卓には、湯気を立てるカレーが並んでおり、香辛料の香りと炒めた玉ねぎの甘い匂いが部屋いっぱいに広がっていた。


 すると結は、小皿に置かれていた福神漬けへ手を伸ばし、自分の皿へ少し乗せると、一瞬だけ動きを止めた。


 視線が、直己へ向く。


「……」


 少しだけ迷うような間の後、小皿をそっと差し出した。


「す、鈴木さん、福神漬け要りますか」


 結は照れくさそうに目を逸らしていたけど、その表情は以前ほど棘がなかった。


「ありがとう、結ちゃん」


「どういたしまして……」


 そのやり取りを見て、美生と互いに目を合わせて微笑んだ。



 福神漬けを入れ終わり、カレーを食べ始める。


「うん、今日のカレーも美味しいよ」


「ありがとう」


「私が切った野菜がちゃんと活きていて美味しい」


「野菜切るの手伝ってくれてありがとね、結ちゃん」


 和やかな空気が流れるが、直己だけが妙に静かだった。


「直己、黙っているけど大丈夫か?」


「もしかして、鈴木君の口に合わなかった?」


 無反応の直己を心配したが、その直後――。

 

「島内さん、めっちゃ美味いよ!」


 熱量そのままに言葉が飛び出す。


 あまりに真剣な表情だった。


 美生は一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑う。


「そ、そう、なら良かった」


「いきなり大きい声出すなよ、びっくりするじゃんか」


「……」


 結は少しだけ呆れたような視線を直己に向けるが、それでも以前のような強い拒絶ではない。


 最終的に直己はカレーを三回おかわりした。




 その後。


 洗い物をやり終えると、直己と美生は帰ろうとしていた。


「また明日ね。駿君、結ちゃん」


「じゃーな駿、結ちゃんもまた」


 結はほんの少しだけ間を置いて頷いた。


 二人が玄関を出て、扉が静かに閉まる音が家の中へ響いた。


 その直後、様子が気になり、バレないように近くのところまで見送ることにする。


 街灯に照らされた住宅街。


 その先を、美生と直己が並んで歩いていた。


 肩が触れそうで触れない距離。


 最初は何かを話していた直己が、美生の言葉に笑い、その笑い声につられるように、美生も笑っていた。


 楽しそうだった。


 昼間、あれほど緊張していた直己とは思えないほど自然な笑顔だった。


(頑張れよ直己、応援してるからな)


 安心して家に戻ることにする。



 夜空を見上げると、雨は降っていなかったが、厚い雲が空を覆い、星は一つも見えなかった。


 

※ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


現在5章の改稿を行っています。改稿が終わりましたら、活動報告等にあげますので、そのタイミングで読んでいただくと、嬉しいです。気にしないよという方は先を読んでいっても大丈夫です。


この作品を最後までよろしくお願いします。

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