4-6 力になりたい
次の日の朝。
柔らかな朝日が街を照らす中、駿は果奈と並んで学校へ向かっていた。
◆◆◆
果奈が学校へ戻ってきてからというもの、この時間は二人にとって当たり前になりつつあった。
待ち合わせをしたわけでもない。
どちらから誘ったわけでもない。
気がつけば同じ道を歩き、他愛もない話をしながら学校へ向かう。
そんな何気ない朝が、心地良かった。
「ふぁ……」
「凄く眠そうにしているけど、やっぱり、昨日何かあった?」
その質問に果奈が身体に電撃が走ったかのようにびくっと反応した。
「ううん、なんでもない。強いて言うなら、弟のことを寝かしつけていたくらい」
そして思い出したようにこちらを見る。
「それと、昨日はごめんね。急に電話切っちゃって」
「そ、そうなんだ……」
果奈が焦りながら答える様子を見ていると、電話を切られた後、俺が何を考えていたのか思い出してしまった。
(……駄目だ)
頭の中に昨夜の記憶がよみがえる。
急に電話を切った果奈。
“お風呂に入る”という言葉。
そして。
そのまま果奈がお風呂に入る様子を、勝手に想像してしまった。
(俺、何考えてたんだ……)
思い出しただけで耳まで熱くなり、果奈と同じように、少しだけ視線を泳がせた。
「どうしたの、なんか凄い反応してたけど?」
果奈が不思議そうに覗き込む。
「本当に、本当に!なんでもない」
果奈がお風呂に入ってる姿を想像してたなんて、口が裂けても言える訳がない。
「逆にそこまで返されると、怪しいんだけど……」
「本当に何もないから」
これ以上この話題を続けたら危ないと思い、果奈の弟の話題へと変える。
「それよりも弟の寝かしつけるのって大変?」
「そんなに難しくないよ」
「子守唄を聴かせたり、お話を読み聞かせたりする感じ?」
「そんな感じ、昨日はお話を読み聞かせた」
「そうなんだ~因みに昨日のお話ってどんな内容?」
「シンデレラに似た内容でね、王子様が……」
『王子様』と言った瞬間。
果奈の歩幅が乱れ、ほんのりと頬を赤く染める。
その様子を見て不思議に感じた。
「王子様がどうしたの?」
「……」
果奈は反応せず視線を逸らしたので、無理に聞こうとは思わなかったが、心の中では気になって仕方がなかった。
どんな王子様を想像していたのだろう。
けれど。
果奈がそこまで照れているのなら、聞かない方がいい。
そう思えた。
「ごめんね」
果奈が申し訳なさそうに呟く。
「謝ることないよ、俺だって、果奈に聞かれて恥ずかしいことがあったら、躊躇うし」
そう言った後、静かな沈黙が流れる。
気まずい訳ではない。
ただ、朝の風だけが俺と果奈の間を通り抜けていった。
そんな空気が流れていると、後ろから凄いスピードで誰かが走ってくる。
「よーっ、お二人さーん!」
元気な声が後ろから響いた。
制服の裾を翻し、息を切らしながら一直線にこちらへ向かってくる姿は、まるで百メートル走の終盤のようだった。
「朝から二人きりなんて、羨ましいぜ!」
正体は直己で、登校時間にまだ余裕があるのに、遅刻しそうになってる時みたいに、焦っているように見えた。
「いや、そんなことよりもなんで急いでいるん?」
「実は先輩から借りてた漫画をジュースで汚しちゃって、それをずっと黙ってたら、今日の朝ばったり出会って……」
その時だった。
「見つけたぞ、鈴木!」
直己を見つけた先輩は鬼気迫る表情でこっちに向かって来る。
「ヤバい、逃げないと。それじゃあ、また後で
そう言って、直己は一目散に去っていった。
「鈴木君、大丈夫なの?鈴木君を追いかけていた先輩、凄い形相をしていたけど?」
「まぁ大丈夫でしょ。中学の時も似たようなことあったし」
「駿が大丈夫って言うなら、まぁいいけど」
「だけどあの先輩、怒らせると怖いので有名だから、もしかすると、恐ろしい目に遭ってるかもな」
「本当に大丈夫なの?」
直己が嵐のように去ると、さっきまでの沈黙が嘘だったかのように、自然と会話が続いていく。
青空の下、笑い声を交わしながら、果奈と並んで学校への道を歩いていった。
その日の夜。
自室でのんびりしていると、直己から電話がかかってきた。
「なんだよ、直己」
「なんだよ、じゃねーよ。何で朝、助けてくれなかったんだよ~」
「助けてくれなかったって言われても、あの時どうすれば良かったんだ?」
「直己の親友として自分が責任取るんで今は見逃してやってくださいとか?」
「なんで俺が責任取ることになってるんだよ!それに果奈も居るんだから、言える訳ないだろ」
「冗談だって、冗談。それにしても駿と早川さんってほんとラブラブだな」
「いきなりどうしたんだよ」
「なんか……いいなって思ってさ」
その一言には、羨ましさが少しだけ混じっていて、すぐに気づいた。
直己の頭に浮かんでいるのは、美生のことだ。
「大丈夫だって、直己は馬鹿なところはあるけど優しいから、きっと美生も受け入れてくれると思うよ。俺も出来る限りの協力するから」
「ありがとな、駿が親友でほんと心強いよ」
「だけど、この前みたいに俺と果奈が2人で過ごしている時に覗き見するような事したら協力しないし、美生に直己の秘密言うからな」
「絶対にやらないからそれだけは勘弁」
その後も直己との電話は続き、電話が終わる頃には夜も遅い時間となっていた。
親友の恋も、きっと実ってほしい。
そんな願いを胸に抱きながら、部屋の明かりを消し、眠りについた。




