11-15 来年の体育祭も
二人だけの昼のひとときを過ごした後。
駿は応援席に戻る前にお父さんと結が居る応援席へと向かった。
◆◆◆
人混みの中に二人の姿を見つけ、そちらへ歩み寄ると、その隣には見慣れた人物が居た。
「美生も来ていたんだね」
「うん、結ちゃんが飲み物を渡すってLINEしてくれたから来たの」
「九月とはいえ、日差しの中で行う体育祭はキツいと思うので、無理しないように頑張ってください、美生姉さん」
「ありがとう、結ちゃん。頑張るね」
「兄さんも頑張ってください」
そして今度は俺へスポーツドリンクを差し出してくる。
「お、おう」
この前、真剣に相談に向き合ったのだから、もう少し言葉があってもいい気がする。
でも、こうして飲み物を渡してくれるだけでも、結なりの感謝なのかもしれないと思い、飲み物を受け取った。
「駿も美生ちゃんも午後からの競技、応援してるから頑張って」
「ありがとう、父さん」
「ありがとうございます。健介さん」
父さんに手を振り、美生と一緒に保護者席を後にした。
「美生って午後はどの競技に出るの?」
「綱引きだけかな」
「俺は200メートル走に騎馬戦もあって、終わったら絶対へとへと」
「頑張ってね、駿君」
「全力は尽くすよ。美生も苦手な100メートル走頑張っていたし」
「結果は四着だったけどね」
少しだけ悔しそうな笑顔をする美生。
けれど、俺の中では順位より印象に残っているものがあった。
「それでも、必死さは伝わったよ。順位が悪くても、頑張りは一位だったよ」
体育祭において順位は大切だけど、みんなが全力でやりきり、楽しんでこその体育祭だと思っているからこその言葉だった。
「ありがとう、駿君。この後の競技、心の中で応援してるね」
その笑顔は、さっきまでの苦笑いとは全然違っていた。
「ありがとう。俺も美生を心の中で応援する」
美生と別れ、応援席に戻ると、午後の競技が始まった。
午後の競技も順調に進み、騎馬戦や綱引きなどを終え、残る種目が僅かになる。
体力が削られていく中、迎えるのは200メートル走。
二年生男子全員で行われる競技で、終盤に行われることもあり、疲労困憊の身体にトドメを刺す競技となっていた。
走る順番が巡ってきて、スタート位置へ向かう。
同じ順番には、陸上部員などの走ることに長けた人が揃っており、上位に入るのは難しいメンバーだった。
――パンッ!
ピストルの音と共に、スタートを切ろうとするが、上手く決めることが出来ず、後手を踏んでしまう。
(しまった)
最悪のスタートだった。
前には何人もいる。
距離がある。
足は重い。
思うように加速出来ない。
(厳しいかもしれない)
そんなことを思っていた時だった。
「頑張れー!」
同じ赤組の女子の応援席の方から大きな声が聞こえた気がした。
走りに集合しているから、その方へ視線は向けない。
だけど。
声の正体が果奈だと分かった。
胸の奥が熱くなり、自然と力が湧いてくる。
重くなっていた足が、もう一度地面を蹴る次々とランナーを追い越す。
そして――。
ゴール。
最終的に三位という順位で、競走を終えた。
悔しさがないと言われたら嘘だけど、果奈の応援が背中を押してくれた、その事実だけでも特別なレースとなった。
200メートル走が終わり、応援席へと戻ろうとすると――。
「浅村」
名前を呼ばれて振り返ってみると、岸さんの姿があった。
「200メートル走、お疲れ。騎馬戦とあまり間隔がなかったから疲れたでしょ」
「ほんとに、もう走れないよ」
「浅村の200メートル走、最後の追い上げ凄かった」
「ありがとう、岸さんの走りも運動部に負けないくらい速くて凄かったよ」
すると、岸さんは目を逸らした。
「そ、そう?ありがとう……」
思ったことを言っただけなのに、不思議に思った。
「私戻らないと行けないから、行くね」
「分かった。それじゃあ、また」
岸さんは去っていった。
その背中を見送りながら、少しだけ首を傾げる。
最近の岸さんは、どこか様子がおかしかった。
体育祭の全ての競技が終わり、閉会式が始まる。
結果は青組が優勝したが、赤組は応援賞を取ることが出来た。
「今年も応援賞かー」
「今年は勝ちたかった」
赤組の幹部の嘆きの声が聞こえるが、個人的には最高の体育祭だった。
果奈からの反応。
果奈が作った弁当。
果奈の応援。
それだけではない。
美生の頑張り。
岸さんの笑顔。
直己との馬鹿みたいなやり取り。
部活の仲間たちと全力で走ったリレー。
振り返ってみれば、思い出に残ることしかなかった。
(来年もこんな体育祭にしたいな)
空を見上げると、西日が校庭を黄金色に染めていた。
けれど、その光を覆うように、遠くからゆっくりと雲が広がり始めている。
まるで。
楽しかった今日の終わりを告げるようにも感じるように。
あるいは――。
その雲は、まだ誰も知らない何かを運んでくるようにも見えた。




