11-10 終わっても終わらないもの
二日後の放課後。
睦美は実行委員の作業が行われる空き教室へと向かっていた。
◆◆◆
廊下を歩くたびに、胸の奥が落ち着かなくなり、教室へ近づくほど、その感覚は強くなっていた。
心臓の鼓動が少しずつ速くなっていく。
前回の集まりの時も同じで、きっかけは自分でもよく分かっていた。
分かっているからこそ、余計に意識してしまう。
それは、"浅村を好きになってから"だった。
認めたくないわけじゃないし、むしろ、もう十分過ぎるほど認めている。
それでも。
好きだと自覚した途端、それまで当たり前だった時間が当たり前ではなくなった。
会えるだけで嬉しい。
話せるだけで嬉しい。
そんな自分に戸惑ってしまう。
空き教室のドアを開けると、西日のぼんやりとした日差しが差しているだけで、誰も居なかった。
(まだ来ていないのか……)
終礼が長引いているだけだと思うが、いつも先に来ている姿を見慣れてしまったせいか、少し寂しく感じてしまう。
自分でも呆れてしまう。
少し会えないだけで、こんな気持ちになるなんて。
そして、誤魔化すように作業の準備を始めた。
しばらくすると、ドアの開く音が聞こえ、反射的にその方を振り向く。
そこには浅村の姿があった。
「ごめん、いろいろあって遅れてしまった」
「大丈夫、早速作業に取り掛かりましょ」
来ることは分かっていたのに、浅村が来たことで、心の底からほっとしている自分が居た。
作業は順調に進み、一旦休憩に入る。
浅村と何か話したいと思い、話しかけようとするけど、言葉が出てこない。
好きになる前は、もっと自然に話せていたはずだったのに、今は一言話すだけでも勇気がいる。
そんな自分に困っていると――。
「岸さん」
浅村が急に私を呼ぶ。
「どうしたの、浅村?」
心臓が跳ねて、悟られないように平静を装うので精一杯になる。
「そういえば、しおり作りも終盤だね」
夏休み前から始まったしおり作りの作業は早くも一ヶ月半の月日が経とうとしていて、気づけば終わりが見えていた。
始まりもあれば終わりもある。
当たり前のことなのに、考えるだけで寂しくなった。
「ここまで、岸さんには何度も助けられてきた。本当にありがとう」
優しい声に、思わず視線を落とす。
「私も支えられてきたし、浅村がパートナーで良かった」
それは本心だった。
もし相手が浅村じゃなかったら、この活動はこんなにも楽しくなかったと思う。
「岸さん……」
そして、浅村が言葉を続ける。
「だけど、この実行委員の活動が終わってもこの関係は終わらないよ。だから、もしも悩みとかあったら、いつでも相談して。友達として力になるから」
友達としては少しだけ苦しかったけど、それ以上に嬉しさが強かった。
実行委員が終わっても、もう会えなくなるわけじゃない。
これからも繋がっていられるという事実が大きかった。
「ありがとう」
その時の私がどんな表情していたのか分からないし、嬉しさを堪えきれず、表情に出ていたのかもしれない。
気づけば、更に浅村を好きになっていた。
窓から差し込む西日が眩しく、胸の奥に広がる想いまで照らしてしまいそうだった。
その夜。
机に向かって勉強に励もうとするが、集中出来ずモヤモヤしていた。
『力になるから』
浅村の一言がまだ頭の中に繰り返し響いていた。
勉強に集中出来ないから頭から離れて欲しいのに、頭から離れて欲しくない。
自分でも意味が分からなかった。
(どうしたんだろう……私)
そう思いながらふと視線を上げると、カレンダーが目に入り、あることに気づく。
(浅村の誕生日って来週!?)
まさかのことに驚きを隠せない。
けど同時に、新しい悩みが生まれる。
(誕生日プレゼントどうしようかな……)
誕生日プレゼントを渡したいけど、いきなり私から誕生日プレゼントを貰って、浅村が変に思わないかが心配だった。
悩む。
何度も悩む。
それでも、答えは決まっていた。
(誕生日プレゼントを渡そう)
不安がないと言われたら嘘になるけど、浅村だったら快く受け取ってくれる。
そう心の中で思った。
(何をプレゼントしたら喜ぶのかな)
考え始めると止まらなくなり、まるで私がプレゼントを貰うかのように心が弾む。
浅村を喜ばせたい。
その想いだけは誰にも負けない気がした。
窓の外を見てみると、夕方は西日が照らしつけていたのに、夜空には雲が充満し、暗雲を警告しているみたいだった。




