11-8 決意と満月の奇跡
次の日。
駿は果奈と一緒に帰路についていた。
◆◆◆
前日まで選抜戦があったりと、新人戦に向けていつもよりも部活動が活発になっていて、疲れが身体に沁みていた。
それでも――。
「連日の部活動、お疲れ様」
隣を歩く果奈のその一言を聞いただけで、不思議と身体が軽くなった気がした。
疲れが消えたわけじゃないけど、頑張ってきて良かったと思える。
「ありがとう、果奈も来月に新人戦を控えているから、お互い様」
「そうだね……」
すると果奈は少し残念そうな表情をする。
「でも、今回は同じ日に大会があるから、応援に行けない」
「あー……確かに」
前回の地区大会は例年よりも遅い時期に開かれた為、果奈が応援に来れた。
試合後に声を掛けてもらえたことも。
勝った時に一緒に喜べたことも。
今となっては大切な思い出だ。
だからこそ、今回は少しだけ残念だった。
果奈の活躍を見たかった。
果奈にも、活躍を見てほしかった。
そんな気持ちが胸の奥でくすぐったく疼く。
「でもさ」
果奈が前を向き、口を開く。
「そうなったからこそ、互いに力を発揮出来る気がする」
果奈は空を見上げるように視線を少し上げた。
「今頃、駿も頑張っているんだなって思うと、自然と力が湧いてくる気がするの。駿もそうでしょ?」
その言葉に、俺は足を止めそうになる。
そんな考え方は思いつかなかった。
「うん」
迷うことなく頷く。
「俺も果奈が必死で頑張ってると思えば、どんな強敵が来ても勝てそう」
少し大げさに言うと、果奈は呆れたように笑った。
「流石にそれは言い過ぎ。トッププレイヤーとのレベル差はそれだけでは勝てない」
大会で様々な強敵と戦っているからこそ、言える言葉だった。
「だから、そのような選手たちに勝つ為にも、日頃の部活動を頑張らないと」
種目が違うとはいえ、俺よりも実績がある果奈がそう言うと、自然と背筋が伸びる。
「俺は果奈以上に頑張らないとだな。互いが目標に行けるように」
「うん」
その返事は短かったけど、確かな覚悟が込められていた。
しばらく歩き、視界が開けた場所へ出ると、満月が出ていることに気づく。
日没直後の月はまだ白くなく、淡い橙色を帯びており、どこか柔らかくて、今の時間の空気によく似ていた。
「今日満月なんだね。綺麗」
月を見つけた果奈が反応する。
「しかも今日は九月十五日で、十五夜だ」
「十五夜の満月って、私見たことない」
「どのくらいの頻度なのか調べてみる」
スマホを取り出して検索し、結果を見つけた。
「具体的には書かれていないけど、大体十五年から二十年に一度らしい」
「そうなんだ」
果奈は感心したように月を見上げる。
そして、小さく呟いた。
「こんな奇跡みたいな日に、こうして駿と一緒に居られて嬉しい」
不意打ちだった。
心臓が大きく跳ね、思わず視線を逸らしてしまう。
「駿?」
「いや……」
言葉が詰まる。
「いきなりそんなことを言ってくるのはずるい」
言い終わった後に、自分でも情けない返事だと思った。
けれど果奈は笑わず、むしろ安心したように微笑みながら、優しく話しかけてくる。
「事実なんだから、しょうがないでしょ」
そう言った後、果奈は少しだけ照れたように笑った。
「私は、駿と今こうして過ごせる時間を奇跡だと心から思ってるから」
月明かりに照らされたその笑顔は、優しくて。
温かくて。
眩しかった。
だから、クヨクヨしてはいられなかった。
「俺は――」
言葉を探す。
そして出てきたのは、相変わらず格好のつかない言葉だった。
「果奈とこうして居る時間を、奇跡以上の奇跡だと思ってる」
言った瞬間に後悔した。
(なんだよ、奇跡以上の奇跡って……)
意味が分からないし、我ながら酷い。
心の中で自分を責めていると、果奈が吹き出した。
「奇跡以上の奇跡って何?そんな言葉初めて聞いた」
「それは……言葉の意味通りで」
引くに引けなくなり、変な意地を張る。
「はいはい」
果奈は笑いながら頷き、それから少しだけ優しい顔になる。
「でも、駿も同じことを思っているのだと知れて良かった」
「そう言ってくれると、俺も嬉しい」
気付けば二人で笑い合っていた。
満月の下。
何気ない帰り道。
それなのに、今までのどんな帰り道よりも特別な時間に思えた。
満月の中での果奈との帰り道は、いつもよりも賑やかなものとなった。
果奈と別れた後、一人で歩きながら空を見上げる。
満月はさっきよりも白銀色に変わっていて、更に綺麗になっていた。
綺麗だと思う。
本当に綺麗な月だった。
だけど――。
さっき見た果奈の笑顔の方が、ずっと心に残っていた。
そんなことを思い浮かべながら、家へと足を進めた。




