11-6 全力を出し切り合ったひととき
個人の選抜戦は佳境を迎え、駿は隆二との戦いに臨もうとしていた。
◆◆◆
祐希と他の部員に負けて二敗してしまったが、代表のメンバー入りはほぼ確実なものとなっていた。
だけど、まだ満足はしてない。
目標は一つでも上の順位で代表入りすること。
その為には、この一試合も落とすわけにはいかなかった。
(よし!)
胸にそっと拳を当て、一度大きく息を吸う。
熱くなった心が少しだけ静まり、視界がはっきりと開ける。
覚悟は決まった。
ゆっくりとコートへ足を踏み入れる。
ネットを挟み、対戦相手である隆二と向かい合う。
視線が交わった瞬間、お互いに自然と笑みがこぼれた。
試合前だというのに、不思議と張り詰めた空気だけじゃない。
強敵と戦える喜びも、その場には確かにあった。
(今日の隆二、気合いが入ってる)
表情が違う。
前回の選抜戦とは比べものにならないほど、自信に満ちている。
勝つためだけに立っている目で、それを見た瞬間、自然と胸が高鳴った。
何故だろう。
前回よりも脅威に感じる筈なのに、その時よりも戦いやすい。
夏の終わりとは思えない強い日差しがコートへ降り注ぎ、照り返しで揺れる景色の中、試合が始まった。
俺のサーブから始まるゲームで、ラケットを振り抜き、渾身の一撃を放つ。
――パンッ!!
鋭く伸びたサーブがコートへ突き刺さる。
しかし。
隆二は待っていたかのように余裕で打ち返してきた。
そこから始まる長いラリー。
左右へ。
前へ。
後ろへ。
互いに一歩も譲らない。
厳しいコースへ打てば、さらに厳しい球が返ってくる。
力だけじゃない。
読み合い。
駆け引き。
一球ごとに神経を削られていく。
やがて俺の返球がわずかに甘く浮き、隆二がスマッシュし、先制された。
「……っ!」
悔しい。
それでも、こんな隆二と戦えていることが嬉しかった。
試合は点を取られては取り返すの繰り返しになり、タイブレークに突入する。
コートを包む空気が、それまでとは明らかに変わる。
一球。
その一本が勝敗を左右する。
そんな緊張感が、コート全体を張り詰めさせていた。
ポイントを奪っては奪い返され、わずかにリードしても、すぐ追いつかれる。
息をつく暇すらない攻防。
苦しい。
足は重くなり、呼吸も荒い。
それでも、その時間が不思議と楽しく、この時間がずっと続けばいいなと思うほどだった。
だけど、試合はいつかは終わるもの。
デュースの接戦を制して1ゲームを取り、迎えた次のゲームもマッチポイントを先取し、勝利が目前となった。
あと一本。
あと一本取れば勝てる。
深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
視線の先には、サーブを構える隆二が居て、額から汗が流れている。
それでも、その瞳に諦めの色は一切なかった。
(……そうだよな)
ここで終わるような奴じゃない。
だからこそ、俺も最後まで全力で応えたい。
――パァンッ!
隆二から今日一番の鋭いサーブが鋭く、重く、コートに向かってくる。
素早く動き、なんとかラケットを合わせるが、威力に押され、返球は高く浮いてしまった。
(しまった……!)
それを見逃さず、隆二は大きく踏み込み、ラケットを振り抜く。
取られたと思った。
けれど。
身体が勝手に動き、考えるより先に足が前へ出て、ボールへ飛び込む。
(一か八か、やってみるか)
ラケットを振り切る。
――パシィッ!!
打球は相手の勢いを利用した鋭いカウンターとなって飛び出し、一直線に白いラインを目掛けて伸びていく。
(頼む入ってくれ!)
後は、願うことしか出来なかった。
そして。
――コンッ!
乾いた音が静かに響いた。
ボールはラインぎりぎりへ吸い込まれるように落ちる。
ほんの少しでアウトというラインの際の際に静かに球が接地する音が響く。
その瞬間、勝利が決まった。
込み上げる達成感に、思わず拳を握り締める。
そして、コートの真ん中に向かい、隆二と握手する。
「負けたけどいい試合だった。ありがとう、浅村」
その表情には悔しさもある。
だけど、それ以上にやり切った充実感が浮かんでいた。
俺もその手を強く握り返す。
「ありがとう、油断してたら俺が負けてた。本当にいい試合だった」
選抜戦の一試合。
それだけの筈なのに、この一戦は特別で、互いの全力をぶつけ合ったからこそ、生まれた時間だった。
最終的に祐希が一番手、隆二が五番手。
俺が三番手として代表入りが決定した。
部活が終わった後の帰り道。
隆二と選抜戦の話になった。
「なんとか代表入り出来たが、もっと上に行けたな」
「俺も祐希に負けたのはしょうがないけど、もう一敗は凡ミスが相次いで負けちゃったからさ」
「何言ってるんだ浅村」
少し厳しい口調だった。
「上に行くには、祐希にも勝てるようにならないと駄目だろ」
反論なんて出来なかった。
その通りだから。
「そうだな、県大会を目指すのなら、祐希にもちゃんと勝たないとだよな」
「俺のパートナーなんだから、情けないこというんじゃないぞ」
ダブルスのパートナーとして信頼しているからこその言葉だと思い、自然と胸が温かくなる。
「ああ、それに明日はダブルスの選抜戦、悔いのない戦いにしよう」
そう言った後、拳を隆二の方を向けるが、今までみたいに拳を出してくれない。
「これは明日の結果次第だ。それまでは出さない」
ダブルスにかける隆二の思いが強く伝わってくる。
「分かった。明日のダブルスの選抜戦、絶対に一番手になろうな」
「勿論」
夕焼け色に染まった空が、まるで明日の戦いを後押しするように広がっていた。
明日はダブルス。
今度は一人じゃない。
信頼するパートナーと共に、一番を掴みにいく。




