11-1 戻る日常と複雑な再会
次の日の朝。
目覚まし時計の音が部屋に響き、駿は重たい瞼をゆっくりと開けた。
◆◆◆
今日は夏休み明け、最初の登校日。
休み中も部活で学校へ来る日はあったけど、今日は違う。
夏休みが終わったという事実だけで、身体が布団へ引き戻されそうになる。
「……眠い」
小さく呟きながら起き上がり、制服へ袖を通す。
夏休みの自由な時間は終わり、今日からまた、いつもの日常が始まる。
果奈との待ち合わせ場所に到着すると、既に果奈の姿があった。
見慣れた筈の制服姿。
それなのに、夏休みの間に何度も見た私服姿の印象が強く残っているせいか、どこか新鮮に映る。
「おはよう、果奈」
「おはよう、駿」
いつもと変わらない挨拶。
それだけで少し眠気が飛んでいく。
「久しぶりに制服の姿を見たから、久々に再会したような感じがする」
「何言ってるの、前の土曜日に会ったばかりでしょ」
土曜日。
それは、果奈とキスを繰り返した日のことだった。
自分の部屋。
重ねた唇。
何度も交わしたキス。
今でもあの時のことは鮮明に思い出せるけど、思い出した瞬間、顔が熱くなる。
「さっきから反応ないけどどうしたの?」
考えすぎるあまり、果奈から心配されてしまう。
「いや、なんでもないよ」
そう答えながら視線を向けるが、その視線先にあったのは、果奈の唇だった。
(何考えてるんだ、俺)
意識するなと思えば思うほど、余計に意識してしまい、頭の中から離れない。
むしろ、どんどん鮮明になっていく。
「もしかして、キスのこと思い出してるの?」
「……うん」
図星過ぎて、あっさり認めてしまう。
「……そうなんだ」
果奈の声は少し震えているように聞こえた。
「でも、あのキスを通じて、駿に気持ちを伝えられたから、後悔してないよ」
だけど、言葉は真っ直ぐで、聞いているだけでも後ろめたさがなくなっていく。
「俺にとっても特別なキスだった……また、しよう」
最後の一言を言った瞬間、果奈は驚いたような表情をし、視線を落ち着きなく彷徨わせた。
「……いいけど、三回目のキスは駄目」
そして、その視線をこちらへと向ける。
「あのキスは特別な時にしたい」
胸を鷲掴みされたような感覚だった。
特別な時。
果奈が示すそれがどの時なのか、そもそもやってくるのかは分からない。
でも。
今は果奈がまたしたいと言ってくれた事実、それだけが嬉しかった。
「分かった。その特別な時の為に、今は一日一日を大切なものにしよ」
「……うん」
果奈は少しだけ照れながら頷く。
新しい学期が始まった初日の登校日。
本当なら憂鬱で始まる筈だった朝は、思っていたよりもずっと甘く、優しい時間から始まった。
——放課後。
果奈は部活に行かず、空き教室へと向かっていた。
◆◆◆
目的は文化祭実行委員の集まり。
駿が修学旅行の実行委員の仕事を頑張っていて、私も同じように頑張りたいと思い、立候補した。
集合場所の教室に入り、席に着いて待っていると――。
「早川!?」
聞き馴染みのある声が聞こえ、振り返る。
「辰巳くん?久しぶりだね」
辰巳くんは一年生の時、よく話していた男子で、いつも落ち着いていて、あまり感情を表へ出さないイメージがあった。
折角一緒になれたから、部活をやってる時の駿の様子を聞いたり、一年生の頃とは違う話もできるかもしれない。
そんな期待が胸をよぎる。
「こんなところで再会するとは思わなかったし、会えて良かった」
けれど。
辰巳くんは近くの席ではなく、少し離れた前方の席へ腰を下ろした。
(あれ……)
少しだけ拍子抜けする。
係分担の結果、ポスター制作係になり、そのうちの一人に辰巳くんの姿があった。
話す機会は増える筈なのに、辰巳くんは必要なこと以外、ほとんど話しかけてこない。
視線が合っても、すぐ逸らされるし、避けられている気がする。
その理由は分からない。
けれど、その違和感だけは、小さな棘のように胸へ残り続けていた。




