10-22 恋の予感と向き合い方
次の日。
今日は夏休み最終日。
それでも駿は、秋の新人戦に向けて、練習に励んでいた。
◆◆◆
練習の合間の休憩時間になり、水分補給して休んでいると、隆二が話しかけてくる。
「どうだ、調子は?」
「いいよ」
そう答えながらも、小さく息を吐くと、様子を見た隆二が眉をひそめた。
「なんで調子いいのに、ため息つくんだ?」
「だって今日で夏休み終わりだよ。もっとやりたいことやっておけばよかったな~」
「何言ってんだよ。このまま夏休みが続けば、早川と会える機会が減るけど、それでいいのか?」
「休みが多い分、果奈と色んなところに行けるから、絶対に休みの方がいいでしょ」
今度は隆二がため息をつく。
そのため息は、さっきの俺とは違い、本気で呆れている時のものだった。
「まぁいい。おまえもおまえだけど、あっちもあっちだからな」
隆二につられて視線を向ける。
そこには祐希の姿があったが、空を見上げては俯き、また空を見上げていて、いつもと様子が違うのは明らかだった。
「祐希、何かあったのか」
「分からん。祐希のことだから、多分部活以外のことだと思うけどな」
そんな話をしていると、休憩が終わり、再び練習が再開した。
ラリーなどの基本的な練習が終わり、模擬戦が始まる。
勝ち星を積み重ねて迎えた最終戦。
対戦相手は祐希だった。
ちらっと見ただけだったが、今日の祐希は本調子が出せず、普段なら余裕で勝てる相手にも、苦戦を強いられていた。
向かい合うと、目に力がなく、ラケットを握る手にも、いつもの勢いが感じられない。
試合は祐希のサーブから始まる。
――パンッ
サーブを放つ一瞬の音だったが、それだけでも、祐希が本調子ではないことはすぐ分かった。
そのこともあり、強いレシーブで返す。
いつもの祐希だったら、余裕で取り、更に強い球で返してくるが、今日は返すのに精一杯なように見えた。
戻ってくる球も威力がなく、ラインのぎりぎりに強打すると、取れないと悟ったのか、途中で追うのを辞める。
試合は一方的な展開で進み、終わってみれば、ストレート勝ちした。
普段だったら、強敵である祐希に勝てて嬉しい筈だったが、全く嬉しくない。
それどころか、逆にこっちが消化不良に感じてしまうほどだった。
練習が終わり、隆二が用事で早く帰ったので、一人で帰ることとなった。
学校を出ようとすると、前に祐希がいることに気づく。
背中がいつもより小さく見え、明らかに落ち込んでいるのが分かった。
揶揄うこともあるが、いつもは先輩として頼ってくれている祐希。
だからこそ今は、先輩として支える番だ。
そう思うと、祐希の方に足が進み、話しかけていた。
「祐希、元気なさそうだったけど、何かあったのか?」
「浅村先輩……」
一瞬だけ、助けを求めるような目をするが、すぐ逸らした。
「別に、なんにもないです。部活のことじゃないので」
そうは言ったが、祐希がこのままだと、新人戦として大きな戦力を失い痛手となる。
だが、それ以上に。
人として、祐希を見過ごせなかった。
「それでも、話したら少しは楽になると思うよ」
「そうですか……」
八月の終わりとはいえ、強い日差しが差す中、祐希は黙ったまま空を見上げる。
「浅村先輩……少し付き合ってもらってもいいですか?」
「うん」
その後。
二人で近くにあるファストフード店へと向かい、祐希の相談を聞く。
「実は……小学生の時から、よく遊んでいた女子が居て」
俺でいう美生みたいな存在なのだと思い、話の続きを聞く。
「そいつと最近些細なことで喧嘩して、ずっと話していないんです」
祐希の表情が更に曇る。
「話さなくなってから、そいつが他の男子と話しているところを見ると、胸がチクチクして、心が上の空になるんです」
話を聞いて、なんとなく察しがつく。
その感情を知っていた。
だからこそ、答えは分かっていた。
「浅村先輩、これってなんなんですか?」
答えは喉まで出かかったけど、俺が言うのも違う気がした。
祐希自身に気付いて欲しい。
不思議と、そんな思いが強くなっていた。
「分かるけど、今は言えない」
「なんでですか?」
「俺から言うのは違う気がして」
「はい?」
祐希は首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべる。
「一つ言うとしたら、その女の子と正面から向き合ってみたら?」
果奈と溝が生じて、どうすればいいのか分からなくなった時、正面から果奈と向き合って、なんとかなったし、今がある。
それとは少し違うけど、何かしらの手がかりになる気がした。
「きっと、なにか変わると思うから」
少しの沈黙。
そして、祐希が小さく頷き、話し出す。
「分かりました。頑張ってみます」
今日聞いた声の中で、一番覇気のある声に聞こえた。
「様々な意味で応援してるから頑張れよ」
「それってどういう意味です?」
「特に意味はないよ」
「教えてください」
気づけば、いつもと変わらない雰囲気に戻っていた。
直己の時と同じように、俺が架け橋のような存在になれたらいいなと心に思った。
祐希と別れた後。
考えごとをしながら、一人で帰り道を歩く。
祐希のことは、きっと大丈夫だろうと思う反面、別の考えが胸をよぎる。
今回は祐希の一件だったとはいえ、同じような出来事が起こらないとは断言できない。
もし、果奈との間に再び溝が出来てしまったら。
考えるだけで少し怖くなり、首を振った後、進める足を早くする。
恋は、好きという気持ちだけでは続かない。
向き合う勇気も、気づく力も必要なんだ。
そんなことを考えていると、空を覆っていた雲がゆっくりと太陽を隠していく。
さっきまで眩しかった夏の日差しは少しずつ和らぎ、吹き抜ける風は、新しい日々がすぐそこまで来ていることを教えてくれているようだった。




