10-20 忘れられない感触と夏の最後
次の日。
駿は美生と共に、家で直己の宿題を手伝っていた。
◆◆◆
夏休みも今日を含めて残り二日しかないのに、直己は全く宿題をしておらず、呆れてため息すら出なかった。
「何をしてたら、ここまで溜められるんだよ」
「いや~夏を楽しみまくってたら、つい……」
俺も夏を精一杯楽しんでいたつもりだけど、流石にここまではならない。
「そもそもワークは答え見てやれば、すぐに終わるから、俺と美生の助けは要らなくない?」
「けど、読書感想文と一部教科のプリントは答えがないから、そこは教えて欲しい」
差し迫った表情で、教えを乞おうとしてくる。
「まぁ、鈴木君も反省しているみたいだし、今回は許してあげなよ」
美生は困ったように笑みを浮かべながらも、直己を庇った。
「鈴木君、次からは計画的にするんだよ」
「はい、分かりました」
そんなやりとりを見てると、二人は付き合っている筈なのに、優しい先生とやんちゃな生徒のような関係に見えてくる。
これで大丈夫なのかよと、ツッコミたくなるが、自然と口が止まる。
……いや。
実際は、俺の方が大丈夫ではなかった。
もし果奈の異変に気づけていなかったら。
もし何も聞かず、そのまま帰してしまっていたら。
果奈は、また一人で抱え込んでいたのかもしれない
(……気づけて、本当に良かった)
そう思うと同時に、果奈とのキスが鮮明に蘇る。
唇に触れることしか考えられなかった一回目のキス。
果奈が積極的になって、つい逃げてしまった二回目のキス。
互いの想いを伝え合うかのように、深い口付けをした三回目のキス。
そして、最後の――。
『……駿、大好き』
あの声が耳の奥で何度も響き、思い出すだけで、沸騰するくらい顔が熱くなる。
むしろ、キスした時よりも意識してしまっていた。
「駿君、ぼーっとしてたけど大丈夫?」
考え込んでしまったせいか、美生が心配そうに聞いてきた。
「い、いや……なんでもない。部屋が暑いのかな」
笑って誤魔化しながら答えるが、部屋にはクーラーの風が充満しており、心地いいくらい涼しかった。
「ほぉ~?」
直己が口元を吊り上げる。
「さては、早川さんのことでも考えてたんだな」
「はっ!?そ、そんなことないって」
ムキになって必死に否定するが、かえってそれが逆効果になる。
「図星かよ……」
これ以上何を言っても無駄だと思い、正直に打ち明けることにする。
「……そうだよ」
「はぁ……やっぱりな」
宿題が終わらず助けを求めてきた直己に、ため息をされて、少し気に触る。
「付き合ってるんだから仕方ないだろ」
必死に反論すると、直己はにやりと笑った。
「にしては、いつもより気にし過ぎているような感じがするな~早川さんと何かあったのか?」
その質問に心臓が止まりそうになった。
言える訳がない。
昨日、同じ部屋で起こった出来事を。
「……」
「どうしたんだ、駿?」
直己の質問に答えることができず、ただ顔を逸らすだけだった。
「それぞれの関係があるのだから、駿君が言えないのもしょうがないよ」
そして隣の直己を見る。
「私たちは私たちなりのペースで深めていこ」
「島内さんがそう言うのなら、分かった」
直己がチョロかったのもあったが、美生の言葉が大きかった。
何も言えなかった俺をフォローしつつ、直己には共に歩んでいるパートナーとして最適な言葉を話す。
昔から思っていたが、改めて美生の周りへの気遣いは、本当に上手だなと感じる。
その後もしばらく直己の宿題の手伝いをやり、自分だけでも終わらせられるところまで片付け、直己は家に帰ろうとする。
「じゃあな、直己」
その横で、美生が申し訳なさそうに話し出す。
「またね、鈴木君。あと、今日のお祭り一緒に行けなくてごめんね」
今日は夏休み最後の祭りが開催される日。
本来なら美生と直己で行く筈だったと思うが、今回は俺と結と美生の三人で、祭りに行く。
毎年三人で見ていた花火大会が、今年は美生と直己のデートでなくなり、その穴埋めとして、今日の祭りに行くことになった。
「全然大丈夫。そもそも毎年の恒例行事に割り込んできたのは俺なんだから、気にしなくていいって。それじゃあ二人とも、また学校で」
明るい表情で手を振り、直己は家を後にした。
「さてと、私たちも祭りに行く準備しないとね」
「そうだね。また今年も結が浴衣を着るのに、時間を取りそうだし」
「兄さんっ!」
「っ!?」
勢いよく声が飛び、思わず肩を震わせる。
いつの間にか結が後ろに立っていた。
「確かに、毎年浴衣の着付けに苦戦してたけど、今年はちゃんと覚えたので、バッチリです」
言葉からはやけに自信が伝わってくるが、どうせ今年も苦戦するだろう、と予想する。
「まぁ、頑張って」
「むぅ……」
結は頬を膨らまし、眉を寄せた。
「結ちゃん、今から浴衣着るのに、そんな怖い表情駄目だよ」
「……分かりました」
そして二人は結の部屋へと向かった。
夏休みのラスト。
思えば、ここまで二回も祭りに行っていた。
一回目は果奈と。
二回目は岸さんと。
同じ祭りではあるけど、それぞれが違う思い出として頭に残っている。
(この祭りもきっと思い出に残る筈)
夏休み最後の特別な時間が、幕を開けようとしていた




