盗賊
大柄な男を中心にその両脇に一人ずつ、計三人の男がそこには立っていた。中心のリーダー格とおぼしき男の肩には毒々しい紫色のエリマキトカゲが巻き付いていた。男が手を差し出すとそのエリマキトカゲは男の手に乗り、その姿を速やかにサーベルへと変えた。
守護精霊だ。
守護精霊と野良精霊には決定的に異なることがある。それは武器化できるかどうかだ。エレノアのローズが杖に変化できるように、男の守護精霊のエリマキトカゲはサーベルへと姿を変化させたのだ。
(盗賊か)
その姿にエレノアは悟った。
リジェル王国にも時々出没していた。そのほとんどはジェダイト帝国との小競り合いの戦争の時に一時的に雇われ、そして停戦になって放り出された雇われ傭兵である。
先の戦争ではお互いにどこの領地も奪うことができなかったため誰もなにも得ることのないただ消耗するだけの防衛戦だった。ゆえに傭兵はおろか騎士にすら十分な報奨金は行き渡らなかったという。金に困った傭兵達が盗賊化するのはよくある話だった。
「おう、ねぇちゃん! 無駄な抵抗はやめておとなしく金目のもんを差し出しな!!」
エレノアは震えるケイトのことを背後にかばうようにしてゆっくりと立ち上がった。そして無事だったほうの手でびしっと盗賊達のことを指さす。
「よし! 盗賊達! わたし達はろくに金目の物は持っていない! 搾り取れるものはないと思え! あきらめることだな!!」
「うそつけ!! おまえ明らかにいいとこのお嬢だろうが!!」
怒鳴る盗賊にエレノアは自信満々に胸を張って見せる。
「追い出された!」
「は?」
「家から追い出されたから金目の物はない!!」
「…………えばって言うことかよ」
盗賊達は困ったように顔を見合わせるとこそこそと話し出す。
「え、ほんとうですかね?」
「馬鹿いえ、俺たちを追い払うための嘘に決まってんだろ!」
「でもぉ、あいつ嫌に自身満々じゃないですかぁ?」
盗賊達はエレノアのことを再度確認するようにちらりと見た。
えへんえへんとエレノアは再び胸を張ってみせる。
「ほら、なんか堂々としてますよ」
「堂々とはったりかましてるだけじゃねぇか?」
「うーん、ていうかあの女の着てるドレスと装飾品だけでも十分な稼ぎじゃないですかぁ?」
リーダーとおぼしき大柄な男の左側に居た弓矢を持つ男がそう言った。それに残りの二人は納得したようにうなずく。
「おい、おまえ! とりあえずおまえの服と装飾品を寄こせ!」
「いいだろう」
エレノアはうなずいた後で「ただし」と条件を付け加えた。
「この子には手を出さないと約束しろ。あと代わりの服を寄こせ」
「代わりの服ぅ?」
男達は顔を見合わせると笑った。
「そんなもんあるわけねぇだろ。そうだな、あとその後ろの侍女の服も上等な生地でできてるじゃねぇか。血まみれで破れたおまえの服よりも高く売れるかもしれねぇ。そっちの服も寄こしな!」
リーダーの男はずかずかと歩み寄るとエレノアのことを無視してケイトへと手を伸ばそうとして、それをエレノアが身体を張って阻止した。
「彼女には手を出すな」
エレノアはその青い瞳で真っ直ぐに男を見つめるとそう言い放った。
「てめぇ、自分の立場がわかってんのか?」
それに不愉快げに男が眉を寄せる。そのままサーベルの刃をエレノアの眼前へと見せびらかすように突きつけた。
「おとなしく出すもん出せば殺しはしねぇ」
「だからわたしの持っている物は差し出すと言っている」
しかしエレノアは怯むことなく一歩前へと踏み出して見せる。顔面に刺さりそうになるサーベルを男は慌てて後ろに引こうとして、それは叶わなかった。
エレノアがその手で刀身を掴んだからだ。
「おい……っ」
男は焦った声を上げる。当然、エレノアのその白い手に刃が食い込み、血が流れ出た。しかしその掴む力は強く、揺るがない。
エレノアはさらにその掴む手に力を入れるとサーベルをそのまま横へと倒すように押した。
「どのような立場でも譲れない物くらいある。わたしの物は差し出すと言っている」
輝くようなサファイアの瞳が、鋭く男の目を射貫く。
「彼女には、手を出すな」
「……っ!」
その言葉と視線の強さに動揺した男は思わずサーベルを手放して後ずさった。エレノアはその刀身に食い込んだ指をゆっくりと広げ、それを地面へと投げ捨てる。
エレノアの身体はぼろぼろだった。真っ青なドレスの左肩には矢が刺さり、右手は刀身を掴んだことで血まみれだ。
けれどそのサファイアの瞳だけがどこまでも爛々と、たき火の光を反射して暗闇の中で輝いていた。
「おまえ……、頭おかしいんじゃねぇのか」
その恐れるような盗賊の男の言葉にエレノアはくつりと笑った。
「そうかもな。でも自分の仲間を身を挺してでも守るのは生物の本能だろう?」
エレノアは一歩足を前に踏み出す。その迫力におびえるように盗賊の男は一歩後ろに下がった。
「わたしはたとえ聖女でなくなっても、腐っても医療に携わる者だ。わたしが身を挺することで怪我人が減るのならば、そこにためらう理由はない!」
エレノアのその宣言に、盗賊の男達は硬直したように動きを止めた。
エレノアも、そんな彼らを見返して決してケイトへと攻撃が向かわないようにと両手を広げて見せる。
どんな攻撃をしかけられても、たとえ自分が殺されても死に物狂いでケイトのことだけは守る。その覚悟が視線と態度からにじみ出ていた。
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