遭遇②
目を覚ますとふかふかの布団で寝ていた。
「なんだ、ここ……」
左肩と右手が痛むが、手をかざすと右手には包帯が巻かれていた。そのままおそらく横になっているベッドの天蓋であろう部分と自身の右手を見つめていると、
「お嬢様っ!!」
ケイトが涙目で抱きついてくるとともにバタバタと人が駆け去る音と、「聖女さまが目覚められました!」と騒ぐ声が聞こえた。
「どこ、ここ」
「ろ、ロラン様のお屋敷でございますっ」
ぐずぐずと涙ぐみながらもケイトが律儀に質問に答えてくれる。その頭をとりあえず安心させるようにエレノアは撫でた。
それにケイトの瞳から一気に決壊したように涙がぶわっと流れ出す。
「お、お嬢さまぁっ! わ、私はてっきり、お嬢様が儚くなってしまうかと……っ!!」
「ああ、よしよし、わたしの可愛いケイト。心配させてすまなかったね。君は怪我をしてないかな? うん、ほら、その可愛い顔をわたしに見せてくれ」
「う、うう~っ、もうっ、もう、あのような真似はおやめになってください!」
「よしよし可哀想に。びっくりさせてしまったね。大丈夫大丈夫」
赤くなってしまっている目元をいつの間に着替えたのか謎なネグリジェの裾で優しく押さえてやると、その目がスゥっと据わった。
薄桃色の目が責めるようにエレノアのことを睨む。
「誤魔化さないでください」
「誤魔化してなんていないさ。ああ、ケイトは可愛いなぁ」
「ではなぜおやめになってくれると言ってくださらないのですか!」
その言葉にエレノアは目線をそらした。
それはもちろん、やらないとは断言できないからである。
「どうして視線をそらされるのですか?」
ケイトの視線が刃物のように鋭くとがっていく。
(このままではまずいな……)
ケイトは優秀な侍女なのですねたところで業務をおろそかにすることはないが、視線は冷たくなる。
以前に経験したことがあるからわかる。
冷たい視線のまま終日かいがいしく世話をされるのは、なかなか辛いのである。
(かくなる上は……)
エレノアはケイトに向き直るとその身体を引き寄せて思いっきり抱き寄せた。むぎゅうっと声をこもらせてケイトの顔はエレノアの胸へと埋まった。そのままエレノアは有無を言わせずケイトの頭をもみくちゃに撫でまくる。
「ああ、よしよしよし! ケイトは可愛いなぁ、いい子だなぁ! きみが無事でわたしは嬉しいよ! よしよしよしよし!」
「んん~! んむぅ~っ!」
抗議のうめき声は聞こえるが何を言っているのかは聞き取れない。ばたばたと足は暴れているが、その腕は抵抗せずにエレノアにしがみついているのでケイトもまんざらではないのだろう。
(いやぁ、懐かしい……)
昔幼かったケイトが失敗して涙目になる度にこうして慰めたものである。かつての思い出にエレノアが浸っていると、
「……一体なにをしているんだ?」
扉のほうから声がした。そちらを向くと、おそらく使用人達に呼ばれて来たのだろう。ロランが不審げな顔をして立っていた。
「見てわかるだろう。わたしの可愛い侍女を愛でているんだよ。君も一緒に混ざるかい?」
さぁ、と片手でケイトを抱きしめたまま、もう片手を広げてみせると、ロランは顔をゆでだこのように真っ赤に染めた。
「混ざるかっ! は、は、は、破廉恥な……っ!!」
「おやまぁ」
ロラン・グラッド。思いのほか可愛らしい男のようである。





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