第9話「少女」
「――とにかく、今は避難しよう。下手すると、俺程度の能力じゃ対応できない相手かもしれないし」
只もうなずいた。
悠介は、教授をなんとか言いくるめて、外に出る算段をたてる。
「あの、教授――」
「大丈夫ですか?」
は?
悠介は一瞬、教授が誰に向かって言ったのかわからなかった。
もちろん、悠介自身ではない。教授は悠介に背を向けている。
どうやら前方に誰かいるようだ。
悠介は立ち位置を変えて、教授の横から伺った。
「お、女の子?」
そこには十歳程度の少女がうずくまって、泣いていた。
「迷子でしょうか、困りましたねえ」
教授は少女の側に寄ると、優しい口調で話しかける。
「こんにちは、お嬢さん」
「……」
「どうしました? 迷子ですか?」
少女がこくんとうなずく。
教授は、肩の力が抜けたのか、そっと息を吐いた。
「お父さんとお母さんは? 近くにいるのですか?」
「……」
少女は、答えない。
――おかしい。
悠介は、眉をひそめた。
というか、なぜ大学に小さな女の子がいるんだ。
食堂や図書館なら、近所から遊びに来たのかもしれないと思うが、ここは研究棟。大学の僻地も僻地だぞ。
まさか教授陣の誰かの子か?
だとしても、どうして自分の研究室か事務室に置いておかない?
変だ。違和感がする。
「おい」
只が声をかけてきた。
「食われるぞ」
――誰が、とか、何を、とか、誰を、とは聞かない。
悠介は理解した。
「教授、危ない!」
悠介は教授の襟を掴み、少女から勢いよく引き離す。
次の瞬間、つい今し方教授がいた空間に、銀の閃光が走った。
――爪だ。
少女の右腕がいつの間にか、刃物のような長い爪をもつ、毛むくじゃらのゴツいものへと変わっていた。
あの爪で、教授を切り裂こうとしたのだ。
「ゲ、ゲホッ……グゥッ」
いきなり後ろから襟を引かれた教授が、首を痛めて咳き込む。
すいませんね、教授、でも今俺が助けてなきゃ死んでましたよ!
「おのれ……」
少女は舌打ちすると、すっくと立ち上がった。
「小僧風情が、邪魔しおって。死にたいか!」




