第10話「怒鳴った」
少女はまさに鬼の形相で悠介を恫喝する。
「は! まあいい。貴様もそれなりに美味そうだ。二人まとめて食ろうてやるわ!」
右腕だけでなく、少女の全身がビキビキ筋肉を盛り上げ、人外のものへと変質していく。
――あれは、人鬼っ!?
や、やべえええっ!
「教授、逃げますよ!」
「え、ぅえ? 藤谷君っ?」
突然のことに慌てふためく教授の手を取って、一気に駆け出す。
「待てい、小童!」
「と言われて、誰が待つかよおおおっ!」
「ちょ、ちょっと待って、藤谷君!」
「待ちません! 待ったら死にます! 殺されますうううっ!」
走る、走る、走る。
幸いここは悠介たちの縄張りだ。地の利はこちらにある。
廊下を突きっきり、階段を下る。
背後からドスドスドスッと、とても少女のものとは思えない足音がするが、今は気にしていられない。気にしたら負けだ。
ああ、振り返りたくないぜ、こんちくしょう!
「教授、まだへばっちゃダメですよ! 命ある限り、走ってください」
「は、はい……っ!」
すでに息を荒げている教授を励ましながら、悠介は一階まで駆け降りた。
そのまま棟の中央にある出入り口へとダッシュする。
勢いのままに、扉に手をかけた、が。
「――開かない!?」
鍵がかかっているわけではない。
だが、取っ手がビクともしないのだ。
「まさか」
閉じ込められた、のか。
もしあの人鬼がここを封じたのだとしたら、それはつまりこの研究棟全体がヤツの結界内だということになる。
一部屋を封じるのが精一杯の悠介とは、比べ物にならない霊力だ。
勝ち目が、ない。
――まずい、まずい、まずい!
悠介の中に焦りだけが、巡っていく。
「クソ! なんで開かないんだ!」
「藤谷君、落ち着いてください。もしかしたら警備員さんか誰かが誤って閉めてしまったのかもしれません。他の出口を探しましょう」
「でも教授……!」
「藤谷君っ!」
教授が――怒鳴った。
悠介は呆気に取られた。
あの教授が、怒鳴った。
初めて見た。
驚きが興奮を上回り、悠介も少しずつ頭が冷えていく。
「探しましょう。まだ諦めてはいけません」
「はい……」
「大丈夫、何があっても君は私が守ります」




