第11話「地獄の沙汰も教授次第」
教授が悠介の頭に手を置いた。
そこから、じんわりと熱が広がる。
「教授……」
「頑張りましょう、ね」
悠介はうなずく。
普段なら熱くなった教授を収めるのは、自分の役目なのに。
なんだかおかしくて、悠介は苦笑した。
だが、教授は数歩も行かない内に、足を止めた。
「それにしても、いらっしゃらないですね」
「え?」
「先ほどの少女です。我々のすぐ後を追ってきていたと思うのですが」
そういえば、さっきから、物音一つしない。
階段を降りた時は、確かに後ろにいたはずなのに。
「そう、ですね。普通ならもう追いついているはず」
「何かあったのでしょうか」
何があったにせよ、来ないというなら好都合だ。
誰が喜んで食われるかってんだ。
「まあ、いいんじゃないですか。命拾いしたなら、それはそれで」
「だと良いんですが……」
教授は首を傾げる。
行動に理由が見いだせないと、スッキリしないのだろう。
これだから、学者という生き物は困ったものだ。
「今は生き残る事が先決です。ゆっくり考えるのは後でいい」
「――それはどうだろうな」
人影が階段から降りてくる。
もしや、人鬼の少女か!?
と、一瞬身構えたが、悠介はすぐに力を抜いた。
「只!」
只は平然と一段一段、下がってくる。
「お前、無事だったのか。あの人鬼はどうなった」
「さあ?」
肩をすくめる只。
「どっか行ったみたいだけど。大方、よそに興味が移ったんじゃねえの?」
「教授を放って? そんなはずは――いや、待て。お前、さっき何て言った」
「さっきって?」
「ここに来て、開口一番に口にしたセリフだよ」
只は階段を降りきる。少しずつ悠介たちの方へと歩み寄る。
近づくに連れて、悠介はヤツの表情に嫌でも気づかされた。
――鼻で笑っている。
只は、悠介たちを嘲りながら、楽しんでいるのだ。
「お前は、「それはどうだろうな」と言ったな。どういう意味だ」
「……さあ?」
「今更シラを切るなよ。何を隠している」
「教える義理はない。――と言いたい所だが、まあ、そこのオッサン次第だな」
「教授の?」
悠介は教授を振り返る。
その教授といえば、突然虚空に向かって(教授にはそう見える)話を進めている教え子にどう対応したらよいものか、思案しているようだった。




