第8話「境」
「藤谷君のご出身は関西方面ですか?」
「生まれは徳島ですけど。どうしたんです、いきなり?」
「はあ、なるほど。四国ですか。
――あのですね、桜餅といって、道明寺を連想するのは、関西方面の方が多いそうです。関東では、桜餅といえば長命寺をさすのですよ」
「ああ。以前、青森に出かけた時に桜餅を買おうとしたら、「どっちの?」と聞かれたことがあります。まさか桜餅に種類があるとは知りませんでしたから、つい「普通のを」って頼んじゃいました」
教授はふふ、と笑う。
「北海道や東北地方は、昔から関西との交流が多かったですから、食文化も関西流だったりするのですよね」
「そう言えば、聞いたことがありませんでしたが、教授のご出身は?」
「私ですか? 私は家の都合で、あちこちを転々としていましたからねえ。生まれは島根ですが」
あー、島根。神の国、出雲ですか。
なんだってこの人はそう、いろいろ出てきちゃいそうな場所に生まれてきちゃうかねえ。
「思えば、親に連れられて、日本中を回りましたね。生憎、徳島はまだなんですが」
「でしたら、今度の休みは家へいらして下さい。まあ、鳴門の渦潮くらいしか見るものがないんですけど」
「いえ、藤谷君のご実家も気になりますし。ぜひお伺いしたいです」
「まあ、古い寺なんで……大したもんじゃないですが」
「お寺さんなんですか」
教授が興味を持ったようだ。
「では、藤谷君もいずれは住職に?」
「うーん、俺は得度もしてませんからね。親父も後継ぎは、叔父にする気なんじゃないかと思ってるんですけど――ん?」
肩をツンツンつつかれ、悠介は振り返る。
只だ。
悠介は教授に見えない角度で、小声で答える。
「なんだよ」
「今は部屋、戻らない方がいい」
「なんで」
「結界が破けてる」
「……え?」
結界とは、教授があまりにもアレを引っ付けてきてしまうので、急遽悠介が研究室に張った簡単なものだ。
目の荒い網のようなもので、あまりにも小さくて弱い魑魅魍魎レベルなら、隙間からすり抜けてきてしまうが、ある程度の霊体ならシャットダウンできる。
「……相当強いのじゃなきゃ、破けないくらいの強度はあるはずだけど」
「じゃあ、その相当強いのがいるんだろ」
「……」
悠介は考える。




