第5話「幽霊ホイホイ」
教授は窓の外を見てつぶやいた。
「もうすぐ黄昏時ですね」
「はあ」
「あ、よろしければ藤谷君も、一緒にいかがですか?」
相変わらず、会話に脈絡がない。
が、教授のことだ。おそらく、アレが諦めきれてないのだろう。
「なんとなく想像は付きますが、何にでしょうか」
「幽霊見――」
「ダメです」
悠介は即答した。
「まだ言い終えてないんですが……」
「ダメったらダメです。教授、神在祭の資料まとめも、学生レポートの採点も終わってませんよね」
「う」
「幽霊は待ってくれますが、締め切りは待ってくれませんよ」
「うう」
「また教授会でいびられたいんですか。給料分働かないのは、泥棒ですよ」
「うううっ」
悠介は教授の首根っこをつかみ「はーい、ひとまず顔を洗ってさっぱりしましょうか」と、部屋の外へと引きずっていく。
――まったく。
悠介は心の中でため息をついた。
これ以上、幽霊なんぞに関わっていられるか。
そもそも、この研究室にアレがうじゃうじゃた溜まっているのは、立地的な問題もあるが、三割は教授が知らず知らずの内に連れてきてしまったものだ。
河童のミイラや呪いの面などの「お土産」に憑依してる場合もあるが、たいていは教授の背中にひっついてくる。
――世の中にはいるのだ。度を越えた、霊媒体質が。
いや、霊媒というよりは誘蛾灯、あるいは……幽霊ホイホイだろうか。
「ヤツら」いわく、教授からはとても美味しそうな香りがするらしい。
その香りにつれられて、一匹、二匹、と増えていき、最終的には百鬼夜行。その姿たるや、まさにこの世の終わりである。
だが、どれだけ目に見えないモノたちにひっつかれようが、教授には何かすごい守護がかけてあるらしく、まるっきり影響がない。よほど強力な相手でもない限り、体を乗っ取られることはまずないだろう。
だから、教授自身は比較的安全だ。
教、授、自、身、は。
その代わり、困るのは周りである。
なまじ悠介のように中途半端な霊感がある者の方が危険だ。
あまりの霊圧に体調を崩してしまったり、生首を見たショックで気絶してしまったり、下手すると悪質なものに取り憑かれたり、と散々な目に合う。
おかげで、八幡ゼミには一層学生が近寄らなくなるわけだ。バンザイ。




