第41話「上トロと親近感」
とっさに悠介は教授に駆け寄る。
脈を取って、呼吸が正常なのを確認すると、安堵してヘナヘナと座り込んだ。
「寝てるだけだ……良かった」
憑依のし方によっては、教授のエネルギーを吸い尽くされ、ついには衰弱死する可能性もあった。
だが幸い、あの教授もどきはそういう憑依はしていないらしい。
「っはあ」
張り詰めていた神経をわずか緩めると、悠介は天井を仰ぎ見た。
「何なんだ、今日は。次から次へと、ろくでもない来客ばっかり」
つい数時間前までは、授業を受けて、戸塚とだべって、教授に振り回されてという日常があったはずなのに。
平和って脆いんだなあ。泣きそうだ。
「――おい、坊や」
声をかけられ、悠介は首だけそちらに向ける。
戸塚父もかなり疲弊しているようで、床に座りながら大粒の汗をぬぐっていた。
「何スか」
「これからどうする気だ。あの忌々しい憑依野郎の言うことをきくにしたって、準備が必要だろう」
「そうですねえ」
とは頷くものの、正直頭が回っていない。
「んーまあ、とりあえず鬼を見つけないことには始まらないんじゃないですか」
「心当たりは?」
「まったく」
生憎と鬼に友人はいないもんで、と悠介はヒラヒラと手を振る。
戸塚父の舌打ちする音が聞こえた。
「ったく、國宏のヤツ、毎度毎度面倒ごとに巻き込まれやがって。しかも本人に自覚がねえんだから、始末が悪い」
「同感です」
まあ、自覚があったらあったでぶん殴りたくなるが。
「自分が危機管理能力がゼロなんだってこと、もっと認識して頂きたいですよ。
やれ幽霊だ、妖怪だ、目を輝かせて。
そんな良いもんでも、面白いもんでもないっつーの。
これだから、見えない連中はお気楽というかなんというか」
戸塚父は深く頷く。
「全くだな。興味半分でこっくりさんをやってる学生を見ると半殺しにしたくなる」
「そう! ホントですよ!
失敗してるならまだしも、なまじ中途半端に形式を踏んでると、辺りのどうしようもない下級霊がウヨウヨやってきて」
「ああ、せめて「何かおかしいな」ぐらいは気付ければ、まだ対処のしようもあるが……」
「ないない。大概放置ですよ」
「ったく、誰が処理すると思ってんだ。あんなの食っても不味いだけなのに」
戸塚父が苦々しく吐き捨てる。
「へえ。やっぱり、不味いんですか、アレ?」
「食えたもんじゃねえぞ。固いわ、味はしねえは、まるでゴミ食ってるみたいだ。
美味さは霊力に比例するからな」
「ふーん」
「その点、蛇神クラスだと――そうだな。上トロ並みくらいには美味い」
「上トロ……」
なんかわかるようなわからないような例えだ。




