第39話「鬼ごっこ」
戸塚父が嫌々ながらも承諾したのを見て、教授もどきはソファに大仰に座る。
――やっぱり態度のデカい教授って気持ち悪い。
「じゃーま、色々あったけど、一応話はついたということで。OK?」
「オイ、それはいいが、さっさと周りの霊どもを――」
「要件は一つ」
教授もどきは、人差し指をピッと立てる。
セリフを途中で遮られ、戸塚父のこめかみがひくつくのが見えた。
わずかに口が開き、言い返すのかと思った瞬間、教授もどきがすかさず言葉を次ぐ。
「アンタ方には、鬼ごっこをしてもらう」
その一言を理解するのに、約三秒かかった。
………………は?
「鬼ごっこお?」
悠介は素っ頓狂な声を上げた。
戸塚父も「何言ってんだコイツ」と表情で語っている。
「いや、逆か。人間が鬼を追うのだから、逆鬼ごっこだな」
「いや、意味わかんないんだけど」
「鬼を捕まえろっつってんの。言葉通りの意味だ」
悠介は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……鬼って、パンチパーマに角生えてて、虎柄のパンツはいた?」
「いつの時代のイメージだよと言いたいが、ま、そうだな」
「……それって、ようするに鬼退治じゃないのか」
「退治じゃない。生かしたまま俺の目の前に連れてこい」
教授もどきはフンと鼻を鳴らす。
――鬼、鬼ねえ。
悠介は先ほどの少女の人鬼を思い出す。
おそらくだが、あの人鬼は鬼になって日が浅い。鬼としての力なら、かなりレベルの低い方だろう。
しかし――その弱小鬼ですら、あの威圧感、あの気迫。
人間がまともに戦って勝てる相手ではない。訓練を積んだ退魔士だって、鬼には四〜五人で襲いかかって、ギリギリ勝てるか否かだ。
それを、生け捕りにしろだあ?
「余計に難しいわああぁっ!」
悠介は思わず机をバンバンバンッと叩く。
「無茶言うな! 人間が鬼に勝てるわけないだろ!」
「別にお前だけでやれとは言ってない。あそこの「異界を食む者」とやればいいだろう。あれは人間としては十分規格外だ」
「でも――っ」
なおも反論を続けようとする悠介に、教授もどきが手を伸ばす。
そして下顎を掴まれ、無理やり顔を近づけさせられた。
「逆らえる立場か、人間」
噛みつかれんばかりの距離で、教授もどきが牙をむく。
「答えろ。お前は逆らえる立場か」
「……っ」
「ちなみにイエスという解答は認めない。ノーかノーで答えろ」




