第38話「剥離」
「あれが攻撃なわけないだろう……っ、本気で消す気ならあんな下級霊、一瞬でやっている」
ああ、それは同意。
「あの玉は離魂球。その名の通り……クッ、魂を体から引き離すものだ。
憑依してすぐならさほど体に根付いてないし、元々他人の魂だ。ちょっとのきっかけで、すぐ離せると思ったんだがな……!」
グアン、と重低音が響く。
戸塚父の両腕が圧力で震えていた。
「ぐぅっ!」
教授の体から放たれる香りが、より濃度を増す。
もはやむせかえりそうな程の濃さで、部屋中に充満していた。
その中心で、教授は例えるならそう――毒花のように笑みをたたえている。
「それで俺だけ滅するつもりだったんだろうけど、残念だったな。時間切れだ。
そこの藤谷のボーヤが邪魔しなきゃ、もしかしたら間に合ってたかもしれなかったけどな」
「え、俺のせい?!」
教授もどきがこちらを見る。
戸塚父もこちらを見る。
二人は同じタイミングで視線を逸らした。
「……まあ、いい。
とにかくいまや立場は逆転してんだ。少しは話を聞こうって気になっていただけました、誠さんよ?」
茶化す教授もどきに戸塚父は吐き捨てる。
「黙れ下種」
「おー怖い怖い。別に取って食おうってんじゃねえんだからさ、そんな目で睨むのやめてもらえる?
こっちはアンタらを襲ってるほどヒマじゃないんでね」
「……は?」
「時間がない。じゃなきゃ人間なんかに頼まねえよ」
戸塚父は初めてまともに、教授もどきの顔を見た。
「……どういう、意味だ」
「やっと聞く気になった?」
「今すぐ、この周りの霊どもを呼ぶのをやめれば、考えんでもない」
「そうすると、アンタ、俺を襲うじゃん」
「…………」
戸塚父は否定しない。
妙な所で真面目というか、正直というか。
しかし互いに譲らないこの状況じゃ、話が先に進まない。
悠介はだんだん面倒くさくなってきた。
「……話ぐらい聞いてやったら?」
「坊や」
「なんかよくわかんないけど、戸塚父は教授を守んなきゃいけないんだろ。だったら、教授を人質に取られてる以上、どうしようもないんじゃないの」
「……國宏のフェロモンに当てられたか」
悠介はムッとする。
「俺だって、教授のツラして好き勝手やってるコイツ、ムカつくけどさ。
――でも、じゃあ何やったかっていえば、教授に憑依しただけだろ。命狙われたわけでもないし、事情もありそうだし、ぶっ潰すにしたって話聞いてからでも遅くないんじゃない」
戸塚父は不満そうだ。
だが、先ほどより険悪さが和らいでいる。
「それでも、どうしても今すぐ叩き潰したい?」
「……いや。いいだろう。坊やに免じて今は見逃してやる」




