第30話「異を食む者」
悠介は一人で勝手に納得すると、満足気にうなずいた。
「――ああ、そうですよ。わかりました、そういう事ならOKです」
「? もうよろしいんですか?」
「はい。大した事ではなかったですから」
悠介は教授に向かって微笑む。
しかし、どこか教授は不安そうな表情を続けていた。
「……教授?」
「本当に無理はなさらないでくださいね。誠さんに脳を直接「食われた」んですから。
藤谷君自身には影響はないはずですけど、気絶するほどの衝撃だったのは間違いないですし」
「……食われた?」
教授は深刻そうにブツブツ唱えている。
「いえ、しかし、もし藤谷君が憑依体となかば同化していた場合は、ヘタをすると脳になんらかの損傷が残る可能性が――」
「ち、ちょっと教授?」
「でも誠さんは先ほど間違いなく食べたと言っていたし、もし完全に憑依しきっていたら、藤谷君の精神ごと食べられてしまった可能性も――」
「ま、待ってください! それ、俺の話ですよね!? なんか地味に怖いことになってるんですけど」
「え?」
ようやく教授は顔を上げた。
きょとん、と額に書いてある。
「どうかしましたか?」
「どうかって……」
聞きたいことは山ほどある。
が、どう聞けばいいのだろう。
悠介自身、うまく頭の中を整理できないでいた。
髪をぐしゃぐしゃとかき回すと、思い息を吐く。
「とりあえず……食われたってなんですか」
「えっと、そのままの意味ですが」
「俺が? 戸塚父に?」
「いえ、正しくは藤谷君の中にいた憑依体です」
憑依体?
蛇神のことだろうか。
そういえば、先ほどから妙に大人しい。
「その……憑依体? が食われたってことですか?」
「はい。誠さん曰わくしっぽだけだったらしいですけど――」
しかし、教授は途中で口を噤む。
「あの……もしかして、藤谷君、何も聞いてないんですか?」
「何もが何を指すかはよく分かりませんが、おそらく」
「誠さんのことも?」
「教授に聞くまで名前すら知りませんでした」
悠介はきっぱりと断言する。
事実だから仕方ない。
教授はその返答に口をあんぐりと開けた。
「あ、あの人は……」
大きく肩を落とすと、教授は額を抑える。
「という事は、異を食む者もご存知ないんですよね」
「……ああ。なんか、鬼がそんなこと言ってたような気がしますけど。それって何なんですか?」
「――異を食む者。漢字では「異なるを食べる者」と書きます」
ああ、異を食む者って、特殊なハムとかじゃないわけね。
「その名の通り、人間とは異なる者――つまり幽霊や妖怪を食べて生きている人間のことです」




