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蛇神  作者: ヒノエ
30/43

第30話「異を食む者」

悠介は一人で勝手に納得すると、満足気にうなずいた。


「――ああ、そうですよ。わかりました、そういう事ならOKです」

「? もうよろしいんですか?」

「はい。大した事ではなかったですから」


悠介は教授に向かって微笑む。

しかし、どこか教授は不安そうな表情を続けていた。


「……教授?」

「本当に無理はなさらないでくださいね。誠さんに脳を直接「食われた」んですから。

藤谷君自身には影響はないはずですけど、気絶するほどの衝撃だったのは間違いないですし」

「……食われた?」


教授は深刻そうにブツブツ唱えている。


「いえ、しかし、もし藤谷君が憑依体となかば同化していた場合は、ヘタをすると脳になんらかの損傷が残る可能性が――」

「ち、ちょっと教授?」

「でも誠さんは先ほど間違いなく食べたと言っていたし、もし完全に憑依しきっていたら、藤谷君の精神ごと食べられてしまった可能性も――」

「ま、待ってください! それ、俺の話ですよね!? なんか地味に怖いことになってるんですけど」

「え?」


ようやく教授は顔を上げた。

きょとん、と額に書いてある。


「どうかしましたか?」

「どうかって……」


聞きたいことは山ほどある。

が、どう聞けばいいのだろう。

悠介自身、うまく頭の中を整理できないでいた。


髪をぐしゃぐしゃとかき回すと、思い息を吐く。


「とりあえず……食われたってなんですか」

「えっと、そのままの意味ですが」

「俺が? 戸塚父に?」

「いえ、正しくは藤谷君の中にいた憑依体です」


憑依体?

蛇神のことだろうか。

そういえば、先ほどから妙に大人しい。


「その……憑依体? が食われたってことですか?」

「はい。誠さん曰わくしっぽだけだったらしいですけど――」


しかし、教授は途中で口を噤む。


「あの……もしかして、藤谷君、何も聞いてないんですか?」

「何もが何を指すかはよく分かりませんが、おそらく」

「誠さんのことも?」

「教授に聞くまで名前すら知りませんでした」


悠介はきっぱりと断言する。

事実だから仕方ない。


教授はその返答に口をあんぐりと開けた。


「あ、あの人は……」


大きく肩を落とすと、教授は額を抑える。


「という事は、異を食む者もご存知ないんですよね」

「……ああ。なんか、鬼がそんなこと言ってたような気がしますけど。それって何なんですか?」

「――異を食む者。漢字では「異なるを食べる者」と書きます」


ああ、異を食む者って、特殊なハムとかじゃないわけね。


「その名の通り、人間とは異なる者――つまり幽霊や妖怪を食べて生きている人間のことです」


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