第29話「飼い犬」
だって、多分これはいわゆる「嫉妬」とか「独占欲」とかいうやつで――。
え、待て。
俺は嫉妬してるのか。
教授に?
いや、違う。あの戸塚父に?
あれ、嫉妬って、どっちにするものだっけ。
いや、待て待て待て!
落ち着け、藤谷悠介。
そもそもおかしい。なんで俺があのオッサンズに嫉妬しなきゃならない。
だって、俺と教授は単なる教師と学生で、それ以上でもそれ以下でもないんだから。
――そう、そうなんだけど。
だけど、じゃあ、教授と戸塚父がこれまで通りの関係でいいかって言われると、そうでもなくて。
いや、だってさ、ムカつくじゃん。あのオッサン。
こう、さも「俺の方が教授のこと知ってます」的な態度しくさりやがって。
そりゃ昔から家族ぐるみで付き合ってりゃ、知ってることも一杯あるんだろうけどさ。
だからって、これ見よがしに「國宏國宏」と連呼すんじゃねえっつーの。
こちとら冗談でも、國宏さんだなんて呼べないってのに。
……だから、違うっ!
幼なじみがファーストネームで呼び合ったって、何もおかしくないだろう、俺!
あーもー、わかんねー。
頭グルグルしてきた。
「うう……」
「だ、大丈夫ですか」
きっとすごい百面相をしていたのだろう。
教授が恐る恐る覗きこんでくる。
「教授」
「はい」
「俺、大丈夫ですか?」
「それは……藤谷君次第ではないでしょうか」
「わからないから聞いてるんです」
「なるほど」
会話のようなそうでないような奇妙なやりとりに、教授は真面目に頷く。
「それは困りましたねえ。私には藤谷君の事はわかりませんし、藤谷君も自分の事がわからないとなると……」
うーん、と教授は首をひねる。
「あ、でしたら、私が藤谷君の様子をお伝えするというのはどうでしょう?」
「様子?」
「はい。藤谷君の表情などは、ご自分では見えないと思いますので」
ニコニコと教授は微笑む。
「はあ……では参考までに。今の俺はどんな表情してますか」
「そうですねえ。呆然、というか飼い犬に手を噛まれたような表情をなさってますけれど」
悠介は思いきり眉をひそめた。
「飼い犬?」
飼い犬に手を噛まれるってどんな表情だっけ。
たしか、可愛がってた犬に、いきなり裏切られ――。
「……」
それだ。
そうだ、それだよ!
自分には懐かなかった飼い犬が、あっさり他人に懐いてしまったときのモヤモヤとか、そんな感じだよ。
そうだ、よくある事じゃんか。
うん、大丈夫だ。
俺はおかしくない。




