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蛇神  作者: ヒノエ
29/43

第29話「飼い犬」

 だって、多分これはいわゆる「嫉妬」とか「独占欲」とかいうやつで――。


 え、待て。

 俺は嫉妬してるのか。

 教授に?

 いや、違う。あの戸塚父に?

 あれ、嫉妬って、どっちにするものだっけ。


 いや、待て待て待て!

 落ち着け、藤谷悠介。

 そもそもおかしい。なんで俺があのオッサンズに嫉妬しなきゃならない。

 だって、俺と教授は単なる教師と学生で、それ以上でもそれ以下でもないんだから。


 ――そう、そうなんだけど。

 だけど、じゃあ、教授と戸塚父がこれまで通りの関係でいいかって言われると、そうでもなくて。


 いや、だってさ、ムカつくじゃん。あのオッサン。

 こう、さも「俺の方が教授のこと知ってます」的な態度しくさりやがって。

 そりゃ昔から家族ぐるみで付き合ってりゃ、知ってることも一杯あるんだろうけどさ。

 だからって、これ見よがしに「國宏國宏」と連呼すんじゃねえっつーの。

 こちとら冗談でも、國宏さんだなんて呼べないってのに。


 ……だから、違うっ!

 幼なじみがファーストネームで呼び合ったって、何もおかしくないだろう、俺!


 あーもー、わかんねー。

 頭グルグルしてきた。


「うう……」

「だ、大丈夫ですか」


 きっとすごい百面相をしていたのだろう。

 教授が恐る恐る覗きこんでくる。


「教授」

「はい」

「俺、大丈夫ですか?」

「それは……藤谷君次第ではないでしょうか」

「わからないから聞いてるんです」

「なるほど」


 会話のようなそうでないような奇妙なやりとりに、教授は真面目に頷く。


「それは困りましたねえ。私には藤谷君の事はわかりませんし、藤谷君も自分の事がわからないとなると……」


 うーん、と教授は首をひねる。


「あ、でしたら、私が藤谷君の様子をお伝えするというのはどうでしょう?」

「様子?」

「はい。藤谷君の表情などは、ご自分では見えないと思いますので」


 ニコニコと教授は微笑む。


「はあ……では参考までに。今の俺はどんな表情してますか」

「そうですねえ。呆然、というか飼い犬に手を噛まれたような表情をなさってますけれど」


 悠介は思いきり眉をひそめた。


「飼い犬?」


 飼い犬に手を噛まれるってどんな表情だっけ。

 たしか、可愛がってた犬に、いきなり裏切られ――。


「……」


 それだ。


 そうだ、それだよ!

 自分には懐かなかった飼い犬が、あっさり他人に懐いてしまったときのモヤモヤとか、そんな感じだよ。

 そうだ、よくある事じゃんか。


 うん、大丈夫だ。

 俺はおかしくない。


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