第28話「幼なじみ」
悠介は不快という感情を目一杯表に出しながら、口を開いた。
「……主人?」
「はい」
「戸塚の父親が、八幡教授の?」
「ええ。とは言っても、今やほとんど形式上だけのものですが」
教授はまるで当たり前のごとく答える。
悠介は自分の耳を疑いたくなった。
ああ、頭がズキズキする。
ヤケクソになって、悠介は適当に言う。
「主人、って。あれですか。「ウチの主人たら、ホントもーぐうたらで。家にいても、テレビ見てるか、新聞読んで寝転んでるだけなのよ。山本さん家のご主人なんて、週末には家族でスキーって言うじゃない? なのにウチのボンクラときたら――」の主人ですか」
「……?」
教授が頭上に疑問符を浮かべている。
悠介はハッと気づいた。
このテの軽口が教授に通じるわけがない。
「あ! いや、失礼しました」
「あ、いえ。私も思わず聞き入ってしまって」
「へ?」
教授はなにがおかしいのか、クスクス笑う。
「藤谷君がまるで女性になってしまったかのように話されるものですから」
「え、あ、そうですか」
「藤谷君は多才ですね。いつも感心してしまいます」
おばちゃんのモノマネもどきで、こうも褒められても困るんだけれど。
喜んでいいのか、ちょっと反応に困る。
「あ、ありがとうございます」
教授はふ、と目を細めた。
出来の悪い子どもが、ある日予想以上に成長していることに気づいて、なんだか嬉しいような寂しいような――そんな大人の表情だった。
「私の家、八幡は代々戸塚に仕える家系なんです。元々は、御庭番のような存在だったと聞いています」
「御庭番、って忍者ですか」
「ええ。とは言っても、武闘派ではなく、もっぱら地域に潜入して情報を収集するのが主な仕事だったようですけど」
悠介は忍者ルックの教授を思い浮かべようとして、失敗した。
「もちろん今では廃業して、一般家庭となんら変わりはありません。ただ、戸塚の家とは、本家が近いこともあって、昔からお付き合いをさせて頂いているんです」
「じゃあ、教授があの人に敬語使ったりしなくてもいいわけですね!」
悠介は思わず、語気を強めて尋ねてしまった。
勢いに押され、教授が目を丸くしている。
「え、ええ。言ってしまえば、単なる幼なじみですから」
「幼なじみ……」
「藤谷くん?」
何だろう、このもやっとした感は。
「わかりました……でも教授は敬語をやめてくれと言ってもやめてくれませんよね」
「理由があるなら聞きますが……」
「言いたくないです」
というか、自分でもこの感情をどう説明していいか、わからない。




