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蛇神  作者: ヒノエ
27/43

第27話「主人」

「それだけ言うなら誠さんが煎れてきてくださいよ」

「あ? なんで俺が」

「誠さん」

「……わかったよ」


 頭をかきながら、渋い顔して、男は部屋を出て行った。


 改めて悠介は辺りを見回す。

 教授の研究室だ。まだ気を失ってから大して時間がたっていないのだろうか。特に片付けられた様子もなく、あちこち切り裂かれた惨状が、そのままになっている。


 悠介はといえば、来客用のソファに横になっているようだった。

 隣で教授が心配そうに見つめている。


「すみません、藤谷君。誠さんも多分悪気があってやったのではないと思いますが……」

「いえ、あの。誠さんって?」


 教授が目をしばたかせた。


「ああ、藤谷君は初対面でしたね。今部屋を出て行った男性で、戸塚誠といいます」

「戸塚、誠……」


 悠介は首を傾げる。

 あれ。どこかで聞いたことないか。

 戸塚、戸塚……って。


「戸塚あ!?」


 ガバッと悠介は跳ね起きた。


「戸塚って、あの戸塚ですか!?」

「あの、とは?」

「いや、えーと、あの戸塚というか、どの戸塚か迷う程、知り合いに戸塚姓がいるわけではなくて」


 大丈夫か、俺。

 言ってること、意味わからんぞ。


「えー、俺の友人で法学部の学生の戸塚です」

「ああ、戸塚明人君ですね。誠さんは彼の父親です」


 ――父親。

 いや、同じ戸塚姓と聞いた時点で薄々予想はしていたけれど。


 似てねー!

 あの親子、全然似てねえ!

 どうやったらあんな嫌みなオッサンから、戸塚みたいな常識人が産まれるんだ。母親似なのか!?


 あ、そういえば愚息がどうとか言ってたぞ。

 それか! その事か!

 いろいろ勿体ぶりやがって、あの親父いいっ!


「は、初耳です……」

「誠さんは文学部の准教授ですからね。確かに学部の違う藤谷君と会う機会はないかもしれませんねえ」


 准教授、あれがか。


 頭がクラクラしてきた。

 悠介は軽く頭をおさえる。


「はあ。でも、どうして文学部の人間が、社会学部の研究室にいたんです? 文学部の校舎とは、結構距離がありますよね」

「誠さんとは、家同士のお付き合いがありますから。よく遊びにきて頂いてるんです」

「それだ」

「は?」


 教授が小首を傾げている。

 悠介は軽い頭痛を振り払うと、教授に言った。


「先ほどからずっと気になっているんですが、何故教授はあの男に敬語を使うんですか。どう考えても、教授の方が年も地位も上だと思うのですが」

「はあ、でも、あの人は私の主人にあたりますので」


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