第27話「主人」
「それだけ言うなら誠さんが煎れてきてくださいよ」
「あ? なんで俺が」
「誠さん」
「……わかったよ」
頭をかきながら、渋い顔して、男は部屋を出て行った。
改めて悠介は辺りを見回す。
教授の研究室だ。まだ気を失ってから大して時間がたっていないのだろうか。特に片付けられた様子もなく、あちこち切り裂かれた惨状が、そのままになっている。
悠介はといえば、来客用のソファに横になっているようだった。
隣で教授が心配そうに見つめている。
「すみません、藤谷君。誠さんも多分悪気があってやったのではないと思いますが……」
「いえ、あの。誠さんって?」
教授が目をしばたかせた。
「ああ、藤谷君は初対面でしたね。今部屋を出て行った男性で、戸塚誠といいます」
「戸塚、誠……」
悠介は首を傾げる。
あれ。どこかで聞いたことないか。
戸塚、戸塚……って。
「戸塚あ!?」
ガバッと悠介は跳ね起きた。
「戸塚って、あの戸塚ですか!?」
「あの、とは?」
「いや、えーと、あの戸塚というか、どの戸塚か迷う程、知り合いに戸塚姓がいるわけではなくて」
大丈夫か、俺。
言ってること、意味わからんぞ。
「えー、俺の友人で法学部の学生の戸塚です」
「ああ、戸塚明人君ですね。誠さんは彼の父親です」
――父親。
いや、同じ戸塚姓と聞いた時点で薄々予想はしていたけれど。
似てねー!
あの親子、全然似てねえ!
どうやったらあんな嫌みなオッサンから、戸塚みたいな常識人が産まれるんだ。母親似なのか!?
あ、そういえば愚息がどうとか言ってたぞ。
それか! その事か!
いろいろ勿体ぶりやがって、あの親父いいっ!
「は、初耳です……」
「誠さんは文学部の准教授ですからね。確かに学部の違う藤谷君と会う機会はないかもしれませんねえ」
准教授、あれがか。
頭がクラクラしてきた。
悠介は軽く頭をおさえる。
「はあ。でも、どうして文学部の人間が、社会学部の研究室にいたんです? 文学部の校舎とは、結構距離がありますよね」
「誠さんとは、家同士のお付き合いがありますから。よく遊びにきて頂いてるんです」
「それだ」
「は?」
教授が小首を傾げている。
悠介は軽い頭痛を振り払うと、教授に言った。
「先ほどからずっと気になっているんですが、何故教授はあの男に敬語を使うんですか。どう考えても、教授の方が年も地位も上だと思うのですが」
「はあ、でも、あの人は私の主人にあたりますので」




