第26話「ひとりでできたもん」
「藤谷君!?」
しかし、蛇神が再び男に攻撃しようとした瞬間、戸口に人が現れた。
「――教授!」
必死に階段を登ってきたのであろう、呼吸の荒れた教授が、悠介を凝視している。
蛇神の気がそれ、右手の印がフッと解けた。
そのわずかな油断を見逃さず、男が走る。
「國宏、ナイスタイミング!」
男は一気に戸口へと向かう。
そして教授の横をすり抜けた。
まさか、教授を囮に逃げる気か!?
だが、いきなり男はこちらに向き直ると、後ろから教授を突き飛ばした。
「わ」
教授が目を丸くしながら、つんのめる。
「受け取れ!」
「なにいぃっ!?」
よろめいて倒れかけたを、悠介は慌てて両手で抱き止める。
いきなりの教授の重みに、膝から崩れ落ちた。
「動くなよ、坊や!」
「え」
悠介が顔を上げる。
次の瞬間、顔面を男に掴まれた。
――貴様ッ!
蛇神に動揺が走る。
「異界に帰れ、蛇神!」
男の掌が、見えぬ牙となり、蛇神を襲った。
脳内への侵入に、悠介の意識がオーバーヒートする。
――コノ、異ヲ食ム者メエエェ!
蛇神の絶叫がこだまする。
悠介の記憶は、そこで途切れた。
◆
「ん――藤谷君」
脳みそがズキズキする。
悠介はうめき声をあげた。
「う……」
「藤谷君、良かった。目が覚めましたか」
悠介は少しずつ、瞼を開いていく。ぼやけた視界が、徐々に輪郭を明らかにしていった。
「教、授?」
「はい、八幡です」
「俺……確か、蛇神が」
「大丈夫ですよ。安心してください。
――それより、お茶でも煎れましょうか。頭、スッキリしますから」
「あ、なら、俺が」
つい習慣で、よくわからないまま立ち上がろうとする。
それを教授に強くたしなめられた。
「駄目です。君は被害者なんですから。ゆっくり寝ててください」
「でも教授、お茶、煎れられましたっけ」
「……」
どこからか、ドワハハハ! と笑い声がする。
教授は口を尖らせると、声の主を睨んだ。
「誠さん。笑いすぎですよ」
「いや、だって、國宏……お前本当に一人で煎れられるのか?」
マコトさん……?
悠介はぼんやりする頭で、その名を探す。
「失礼ですね。私だってお茶くらい」
「じゃあ、前回煎れたのはいつだ? 去年? 一昨年? 五年前?」
「……半年前くらいです」
「今、適当に言っただろ。ここ半年なら、絶対そこの坊やが率先して煎れてるだろうからな」
「い、家で機会があって」
「家なら娘さんがやってるって。誰だって、茶葉が丸々残ってる茶は飲まされたくないだろ」
むう、と教授がむくれた。子供みたいだ。




