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蛇神  作者: ヒノエ
26/43

第26話「ひとりでできたもん」

「藤谷君!?」


 しかし、蛇神が再び男に攻撃しようとした瞬間、戸口に人が現れた。


「――教授!」


 必死に階段を登ってきたのであろう、呼吸の荒れた教授が、悠介を凝視している。

 蛇神の気がそれ、右手の印がフッと解けた。

 そのわずかな油断を見逃さず、男が走る。


「國宏、ナイスタイミング!」


 男は一気に戸口へと向かう。

 そして教授の横をすり抜けた。


 まさか、教授を囮に逃げる気か!?


 だが、いきなり男はこちらに向き直ると、後ろから教授を突き飛ばした。


「わ」


 教授が目を丸くしながら、つんのめる。


「受け取れ!」

「なにいぃっ!?」


 よろめいて倒れかけたを、悠介は慌てて両手で抱き止める。

 いきなりの教授の重みに、膝から崩れ落ちた。


「動くなよ、坊や!」

「え」


 悠介が顔を上げる。

 次の瞬間、顔面を男に掴まれた。


 ――貴様ッ!


 蛇神に動揺が走る。


「異界に帰れ、蛇神!」


 男の掌が、見えぬ牙となり、蛇神を襲った。

 脳内への侵入に、悠介の意識がオーバーヒートする。


 ――コノ、異ヲ食ム者メエエェ!


 蛇神の絶叫がこだまする。

 悠介の記憶は、そこで途切れた。





「ん――藤谷君」


 脳みそがズキズキする。

 悠介はうめき声をあげた。


「う……」

「藤谷君、良かった。目が覚めましたか」


 悠介は少しずつ、瞼を開いていく。ぼやけた視界が、徐々に輪郭を明らかにしていった。


「教、授?」

「はい、八幡です」

「俺……確か、蛇神が」

「大丈夫ですよ。安心してください。

 ――それより、お茶でも煎れましょうか。頭、スッキリしますから」

「あ、なら、俺が」


 つい習慣で、よくわからないまま立ち上がろうとする。

 それを教授に強くたしなめられた。


「駄目です。君は被害者なんですから。ゆっくり寝ててください」

「でも教授、お茶、煎れられましたっけ」

「……」


 どこからか、ドワハハハ! と笑い声がする。

 教授は口を尖らせると、声の主を睨んだ。


「誠さん。笑いすぎですよ」

「いや、だって、國宏……お前本当に一人で煎れられるのか?」


 マコトさん……?

 悠介はぼんやりする頭で、その名を探す。


「失礼ですね。私だってお茶くらい」

「じゃあ、前回煎れたのはいつだ? 去年? 一昨年? 五年前?」

「……半年前くらいです」

「今、適当に言っただろ。ここ半年なら、絶対そこの坊やが率先して煎れてるだろうからな」

「い、家で機会があって」

「家なら娘さんがやってるって。誰だって、茶葉が丸々残ってる茶は飲まされたくないだろ」


 むう、と教授がむくれた。子供みたいだ。


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