第23話「対妖怪用結界」
悠介は断言する。
「俺は教授を傷つけない。絶対に」
一秒。
二秒。
三秒。
わずかな沈黙の後、男は前髪を気だるそうにかきあげた。
「絶対、ね」
「ああ」
「若いなあ。言い切っちゃうところが特に」
口調は穏やかだが、馬鹿にされているのは明らかだった。
悠介は奥歯を噛み締める。
「まあ、分かった。――坊やがどれだけ事態を理解してないか、がな」
ブチ、と悠介の神経の切れる音がした。
「なん」
「お前は爆弾抱えて生きてんだよ」
反論しようとした出鼻をくじかれて、悠介の怒りが一瞬行き場を失う。
その隙に、男は床に倒れている少女の人鬼へと近づいた。
何をするのか問おうとする悠介の前で、男はいきなり予想外の行動に出た。
「な――っ!?」
男は彼女の首を掴み、宙へと釣り上げたのだ。
突然のことに少女は「ヒュウッ」と息を飲み込む。
男から逃れようと必死にもがくが、片手片足では児戯にも等しい。
顔がみるみる赤くなって、苦痛に歪んでいく。
「あぐ……っ!」
「お前、いきなり何を――ソイツは関係なかっただろ!?」
男は悠介を一瞥する。
「庇うのか」
「はあ?」
「関係あろうがなかろうが、人鬼なんて化け物、放っておけば人を襲うだけだ。なら早めに退治してやるのが世のため人のためだろう」
「意味わかんねえって! ソイツに襲われたわけでもないんだろ? 手を離せよ」
男は悠介の言葉に眉をひそめる。
そのままさらに腕の力を込めた。
「ぐうぅ……っ!」
「やめろ!」
いくら人鬼とはいえ、無茶苦茶だ。
男を止めようと悠介は手を伸ばした。
しかし、男まであと数センチというところで、突如バチィッと火花が飛ぶ。
「イ……ッ!?」
悠介は咄嗟に手を引っ込めた。
ヒリヒリと痛む右手をかばう。
よく見れば、指先が赤くただれていた。
――結界、か!?
でも、俺は人間だぞ?
人間相手にここまで物理的に遮れる結界なんて、聞いた事がない。
「効いたな」
男は笑った。
「俺の体には、妖怪どもが気安く触れられないように、結界を張ってある。もちろん、普通の人間には何の影響もない」
「っ、対妖怪用結界!?」
「それが効いたって意味、わかるよな」
「そ、んな、馬鹿な……」
自分は妖怪じゃない。
たとえ蛇神の「加護」を受けているとはいえ、体は百パーセント生身の人間だ。
それともまさかこの体――知らない内に蛇神に侵蝕されているということなのか?




