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蛇神  作者: ヒノエ
23/43

第23話「対妖怪用結界」

 悠介は断言する。


「俺は教授を傷つけない。絶対に」


 一秒。

 二秒。

 三秒。


 わずかな沈黙の後、男は前髪を気だるそうにかきあげた。


「絶対、ね」

「ああ」

「若いなあ。言い切っちゃうところが特に」


 口調は穏やかだが、馬鹿にされているのは明らかだった。

 悠介は奥歯を噛み締める。


「まあ、分かった。――坊やがどれだけ事態を理解してないか、がな」


 ブチ、と悠介の神経の切れる音がした。


「なん」

「お前は爆弾抱えて生きてんだよ」


 反論しようとした出鼻をくじかれて、悠介の怒りが一瞬行き場を失う。

 その隙に、男は床に倒れている少女の人鬼へと近づいた。


 何をするのか問おうとする悠介の前で、男はいきなり予想外の行動に出た。


「な――っ!?」


 男は彼女の首を掴み、宙へと釣り上げたのだ。


 突然のことに少女は「ヒュウッ」と息を飲み込む。

 男から逃れようと必死にもがくが、片手片足では児戯にも等しい。

 顔がみるみる赤くなって、苦痛に歪んでいく。


「あぐ……っ!」

「お前、いきなり何を――ソイツは関係なかっただろ!?」


 男は悠介を一瞥する。


「庇うのか」

「はあ?」

「関係あろうがなかろうが、人鬼なんて化け物、放っておけば人を襲うだけだ。なら早めに退治してやるのが世のため人のためだろう」

「意味わかんねえって! ソイツに襲われたわけでもないんだろ? 手を離せよ」


 男は悠介の言葉に眉をひそめる。

 そのままさらに腕の力を込めた。


「ぐうぅ……っ!」

「やめろ!」


 いくら人鬼とはいえ、無茶苦茶だ。


 男を止めようと悠介は手を伸ばした。

 しかし、男まであと数センチというところで、突如バチィッと火花が飛ぶ。


「イ……ッ!?」


 悠介は咄嗟に手を引っ込めた。

 ヒリヒリと痛む右手をかばう。

 よく見れば、指先が赤くただれていた。


 ――結界、か!?

 でも、俺は人間だぞ?

 人間相手にここまで物理的に遮れる結界なんて、聞いた事がない。


「効いたな」


 男は笑った。


「俺の体には、妖怪どもが気安く触れられないように、結界を張ってある。もちろん、普通の人間には何の影響もない」

「っ、対妖怪用結界!?」

「それが効いたって意味、わかるよな」

「そ、んな、馬鹿な……」


 自分は妖怪じゃない。

 たとえ蛇神の「加護」を受けているとはいえ、体は百パーセント生身の人間だ。


 それともまさかこの体――知らない内に蛇神に侵蝕されているということなのか?


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