第20話「別格」
「これ一枚でも売ればウン百万だろうな。好事家がこぞって買い求めるぞ」
男は挑発的に犬歯を剥いて笑う。
「アンタ……何故、それを」
悠介はたたらを踏む。
蛇神については、一族の中でも、当主や継承者などの極一部しか知らない秘密のはずだ。
ましてや、外部に漏れるなんて――あり得ない。
「何故、それを、か」
男はフッと目を伏せた。
「あまりそういう言い方はしない方がいいぞ。相手に答えを教えてるようなもんだからな」
「……っ!」
野郎――カマかけやがったな!
「テメェ……」
「睨むなよ。引っかかるお前が悪い」
「鱗、返せ! アンタにあげた覚えはない」
怒りに身を任せ、悠介は乱暴に男から鱗を奪い返そうとする。
しかし、男は長身を利用して、ヒョイとその手をかわした。
「なんだよ。國宏にはくれてやったんだろ。ケチケチすんなって」
「教授は別格だ」
「別格ねえ」
吠える悠介に、男はポンポン頭をなでる。
完全に馬鹿にされている。
悠介は全身の血がカッとなり、男の手を払いのけた。
「教授とアンタなんかじゃ、比べものになんねえよ。あの人がいなきゃ俺は――っ!」
「やめて、おけ……小僧」
ハッと我に返る。
ジーンズの裾を、少女の人鬼が握りしめていた。
「貴様、では、勝てん」
「なんだよ。邪魔すんなよ。俺は今」
「やつだ」
「は?」
「私を、こんな体に、した……のは、そやつだ」
硬直する。
悠介はゆっくりと視線を男に向けた。
「やつは、異を食む、者――人、では、ない」
「な……!?」
人間じゃ、ない?
改めて、悠介は男を凝視する。
たしかに、悠介は大した訓練もつんでいないし、慌てていればヒトとそうでないモノを見間違えることもある。
しかし、冷静にさえなれば、そんな凡ミスをするわけがないのだ。
もう一度、頭のてっぺんから足先まで、男を見た。
しかし――何度確認しても、人間だった。
「は、失礼だな。俺はれっきとした人間だぜ? 生まれがちょっと特殊なだけだ。
その点お前と似たようなもんじゃないのか。
――なあ、蛇神憑き、藤谷家の御曹司様よ」




