第2話「七不思議」
何枚目かの資料に目が止まった。
タイトルはこうだ。
「港東大学における七不思議の変遷?」
「え、なんですか、それ」
「いや。なんか、学生のレポート、というか、レジュメか。みたいだけど」
「ウチの大学にも七不思議なんてあるんですか?」
戸塚が興味を持ったのか、覗きこんでくる。
読むのも面倒なので、レジュメを丸々渡した。
「あ、これなんか面白そうですよ。えっと、社会学部の八幡教授の研究室には、座敷わらしが住み着いている……」
悠介は沈黙を守った。
つっこんだら負けだ。
「あー、霊感あるの、先輩だけじゃないみたいですね」
「まあ、いるのは座敷わらしじゃなくて、貧乏神だけどな」
だから、一向に幸が訪れないのだろう、教授には。
「他には――あ、これ知ってます。受験に失敗して、飛び降り自殺した女の幽霊」
「ベタだなあ」
「勝手に鳴りだすピアノ、開かなくなる奥から二番目のトイレ、深夜トラックを走る陸上部の幽霊」
「もうちょっと個性的なのはないのか」
「そうですね。あと、二十個ぐらいあるんですけど。全部読みます?」
「あー、あと二十……七不思議なのに!?」
「これ、ここ十年くらいのデータ、集めたみたいですね。時代毎に結構内容が変わっていくみたいですよ」
ほら、見てください、と戸塚が指をさす。
「さっきのトイレの話、五年前だと体育学部の更衣室横トイレの設定ですけど、翌年には理学部の実験棟のトイレになってます」
「たった一年で?」
ふと悠介は戸塚の指の下に、何かメモ書きされているのを見付けた。
指をどかして覗き込むと、教授の字で「工事?」と記されている。
「工事、か。確か何年か前に、体育館周辺を改装したばかりだって、聞いたことがある」
「きっとそれですね。トイレ、ピカピカになっちゃったから、幽霊が出る雰囲気じゃなくなっちゃったんでしょう」
「雰囲気ねえ」
じゃあ、新しい建築には一切アレが出ないのかよ、と悠介は心の中で毒づく。
「ま、いいさ。どうせ七不思議なんて、九分九厘デタラメなんだから。それより、教授がそろそろ帰ってくる時間だぞ。俺は茶を淹れるから、お前は机の上、片付けといてくれ」
さりげなく部屋の片付けを戸塚に押し付けると、悠介は部屋を出ようとする。
「あ、先輩!」
「なんだよ、お前が茶を淹れてくれるのか?」
「そうじゃなくて、教授が」
「教授?」
――ぶみ。
と、悠介の足が、柔らかいもの踏みつけた。
「え」
恐る恐る、悠介は下を向く。
そこには、白い布にくるまった暖かい肉の感触。つまり――死体?
「ぎゃああああっ! 死んでる!?」
「死んでません、教授です!」
「き、きょ、教授?」




