第3話「桜と死体?」
ゆっくりと足をどかすと、白い青虫――失敬。白い教授は、もそもそとうごめいた。
「んー」
と、眠た気な声をあげると、布の隙間からもそもそと手と顔を出す。
孵化した。教授が孵化した。
「あ、あの、教授」
「はい?」
ようやく起き上がったものの、教授はまだ覚醒しきれていないのか、うつろな目で悠介を見上げる。
「藤谷、君?」
「あ、はい。藤谷です」
「おはようございます」
「おはようございます……じゃないです、教授! もう、五時過ぎですよ」
「あれ、そうなんですか」
「そうなんです」
悠介の返答に教授はしばし考えこむ。
「そうですか。それは」
「はい」
「おはよう、ではなく、こんにちはですね」
これで正解でしょ、とでも言いたそうに教授は笑う。
もし、これが小学生の女の子だったら、確かに、頭をなでて「うん、こんにちは」って微笑み返すのもありだろう。
――だが!
五十を過ぎたオッサンに誰が、微笑むかああっ!
「教授、今日の講義はどうしたんですか。四限、あったはずですよね」
教授の肩をつかみ、無理やり視線を合わせた。
悠介の勢いに驚いたのか、教授はきょとんと目を丸くする。
よく見ると、纏っていた布はカーテンだった。
「講義はですね。今日は天気が良かったので、皆さんで花見をしましょうと思いまして」
「花見?」
背後で戸塚がゲラゲラ笑っているのが聞こえたが、今は気にしない。
「はい。確かに花見は今でこそ宴会の一種になってしまっていますが、古来は農作物の豊穣を占うものでしたから」
「あ、いえ。それは知ってますけど……どうしてそれがこんな所で寝っ転がることに」
「それはですね。桜を見てきたんですが、誰かが桜の木の下には幽霊がいると言い出しまして」
戸塚が会話に入ってくる。
「あ、はーい! 俺、それマンガで読んだことあります。あと、死体が埋まってるやつもありますよね」




