第17話「音の無い激動」
「うぅ……」
部屋の中から、うめき声がした。
「戸塚!」
まさか、怪我をしているのか!?
悠介は鱗を口端でくわえて、片手で早九字の印を切る。
「大丈夫か、すぐに――」
しかし、室内に駆けこんだ悠介が見たのは、予想外の光景だった。
何も、いないのだ。
あれだけ、うじゃうじゃいたはずの魑魅魍魎たちが全て消え失せ、静謐とさえ称することが出来るような、シンと冷え切った空気に包まれている。
例えるなら、そう、掃除されてしまってたかのように。
「一体何が……」
荒れているなら分かるが、綺麗になっているだなんて信じられない。
それもあの短時間で。
どれだけ優秀な祓い屋とて、百はくだらない魑魅魍魎を全て祓うには、一時間はかかるはず。
藤谷家、有史以来の天才と呼ばれた悠介の姉でさえ、四十分強はかかるだろう。
しかし、悠介と教授がここを離れてから、まだ二十分程度しかたっていない。
「あ、ぐ……」
足元で声がした。
入り口から死角の位置にいたため、気付かなかった悠介が、ハッと我に帰る。
「お前!」
倒れていたのは、先ほどの少女だった。
「小僧、か……」
右腕と左足を失い、痛みにうめいている。
死人だから血は出ないが、もし生者であれば、出血多量でやがて死に至っただろう。
「ど、うしたんだ、お前。体、ボロボロじゃんか」
いくら人鬼とはいえ、少女の形をしているだけに、その姿は痛々しい。
「どうした、だと? しらばっくれ、おって。アレはお前の、仲間では、ない、のか……」
「アレ?」
「異を食む、者だ」
イヲハムモノ?
何だ、それは。
「知らん、のか……?」
「あ、ああ」
少女は自嘲気味に笑う。
その笑みすら、弱々しい。
「まあ、いい。どうせ、今の私では……お前程度にも、勝てる、まい。殺すなら、殺せ」
「こ、殺せったって」
悠介は戸惑う。
敵として襲いかかってくるなら、反撃のしようもあるが、こんな死にかけの少女相手に攻撃するなんて、確実に寝覚めが悪い。
「早く、しろ……ボンクラ! これ以上、生き恥を、晒させる気かっ」
「ボンクラ?!」
「うすのろめ。貴様、それでも、男子か……っ!」
「ちょ、ちょっと待てよ! いきなり何言って――」
しかし、悠介のセリフを遮るように、背後から男の声がした。
「ソレの言う通りだぜ、坊や。さっさと滅してやるのが、慈悲ってもんだぞ」




