第16話「異常ということ」
階段を駆け登りながら、悠介は考える。
だいたい教授といい、戸塚といい、どうしてあそこまで鈍感でいられるんだ。
いや、いっそ鈍感を通り越して不感だ、不感。
普通は、どんな人間でも霊感ゼロだなんてあり得ない。たとえ霊が見れなくても、嫌な雰囲気だとか、 寒気だとかぐらいは感じるものなのだ。
ただ、たいていの人間は霊と結びつけていないから、気のせいだと流してしまうだけで。
だから、彼らが本当に霊感ゼロだというなら、それは「異常」なのだ。
そう、下手に霊感が強い人間などよりも、よっぽど。
一は努力次第で、十にも百にもなる。
だが、いくら努力しても、一はゼロにならない。
まあ、人為的に霊感を封じられていられるというのなら、理論上不可能ではない、けれど……。
「ハッ、んなワケ、ないだろ、っての!」
封じるなんて言ったって、それはただの目隠しと同じ事。
襲われなくなるわけでもないし、メリットがないのだ。
だとしたら、生まれつきの特異体質が原因か?
しかし、そんなレアな体質が、こんな近くに二人もいるものだろうか。
「ああ、もう、ワケ分かんねえ!」
悠介は必死に喘ぎながら、悪態をつくことだけは忘れない。
「エレベータ、くらい、つけろってんだ、この野郎っ」
ダン!
と最後の段を強く踏み締め、悠介は四階にたどり着く。
研究室は廊下の突き当たり、最奥だ。
念のため、教授に渡したものと同じ鱗を手に握りながら、慎重に、かつ素早く奥へと進む。
「あ……」
近づくにつれて、見えてくる。
八幡教授の研究室に張った結界の――残骸が。
「ひどい」
蜘蛛の巣のように四方に張り巡らせていた銀糸の網は、見るも無惨に引き裂かれていた。
よく見れば、破れている箇所の周辺が、うっすら焦げている。
よほどの負荷がかけられた、ということか。
――無事だろうな、戸塚。
これで死んでたら心配し損じゃねえか。絶対、末代まで呪ってやる。




