17話 斧
1
「“泥舟”」
“化身”ダックス・ハルマンの《徴》は、泥を生み出し操る力であり、自身の生み出した泥を大地に結びつけ張り巡らすことで、地面への衝撃を感知する、地面自体を操作の対象にするという拡張性を持っていた。
「ン……浅いですね」
迫り来る二頭の馬を、泥化させた地面に捕えるが、彼の想定よりは、その範囲と深度が小さい。それは、数時間に渡り得意でない索敵に能力を使用し続けた疲労と、魔力の枯渇のためであった。
「ですがこれであなたたち、ただの暴れ馬だ」
パンクレスのかけた、対象者に一方向を意識させる中位風魔法……“レイロレイロ”は強力な魔法ではなく、浅い沼に脚を取られた程度の衝撃でも、十分に解除できていた。
しかし、馬車の方へ意識が集中ことこそなくなったものの、彼らは魔馬。体内でほとばしる魔力によって凶暴性を増した、一頭あたり五百キロの巨体。消耗したダックスにはタフな相手である。仲間を守りながらとあってはなおさら。ドタドタと御者台から箱に入ろうと走ってくるトギメイと入れ替わりで地に降りるが、想定外の事態に、神父の脳内にも迷いが生じていた。
「《徴》は最小限であと二回というところ……おふたりから距離を離せるか……パンクレスに察されないか……フー……そもそも勝てるか────ふふ。取り敢えず動きましょうか!」
ダックスは広い肩を揺らして走りだすとともに、泥沼から脱し自由を得た馬たちもまた、神父へ向かう。馬車を狙うという固定化された意識がなくなった彼らは、迫り来る男を真っ先に次の標的へと選んだ。横並びから飛び出た右側の馬が、大きく脚を上げ、蹴りの体勢を取る。
「“泥舟”」
両者の間に泥の壁……ともいえないような、視界を遮るだけの薄い膜が立ち上る。魔馬の強力な脚力から放たれる一撃は当然、それを簡単に貫くが……しかしその先に狙っていた相手はいない。ダックスは一瞬の間に身を翻し、馬の横側に立っていたのだ。
蹴りを透かされたその巨体は、人間としてはかなり大柄となるダックスを一撃の元踏み殺そうとしたその威力で、地面に蹄の跡を深く深く残す。その時こそ、大地と密着し衝撃を空に逃すことが叶わないその時こそが、ダックスの作ったタイミングであった。
「コッ」
胴と頸の境目に放たれた巨大な鉄塊の一撃は、その身に大きな窪みを作る。この時魔馬の頚椎は完全に断裂していた。さらに、長大なその刀身は、いま破壊した者の左側にいるもう一頭の進行経路に伸びており、それを避けようとした馬は……しかし馬という生き物の構造上、そう小回りがきくようには出来ておらず、脚をもつれさせ転倒する。
「しまっ……」
それはダックスにとっては誤算だった。転んだ馬が勢いのまま滑り込む先は、馬車の、それも馬の側になる。今は二頭ともパニックで状況がわかっていないが、彼は思う。いくらなんでも、同族を目の前で殺すことはしのびない、と。
「……オオオッ!!!」
彼はとっさに自身の《徴》で後方に泥の壁を作り、転倒した魔馬を受け止める。自分ならば立ち上がるまでの時間で、魔力を使えなかろうが殺すことが出来る。そういう判断だったが、シタン帝国での純粋な神父としてだけの仕事が長く、戦場を離れていたせいか……力の配分を見誤った。
「ハッ……ハッ……」
結果から言えばダックスは、残る魔力の量からは信じられないほどの頑強な泥の壁を作り、魔獣の巨体をしっかりと支えていた。しかし、ただでさえ減っていた魔力はここで完全に底をつき、それによって彼は、膝を折ってしゃがみ、当分動くこともままならないほどの消耗に襲われていた。
そして、そのダックスに助けられた魔馬の方はといえば、暴走する魔力によって感覚が鈍くなっているが故、ゆっくりとだが立ち上がろうとしていた。言ってしまえば、“化身”とさえ呼ばれた神父ダックス・ハルマンは、しくじった。
「まったく……慣れないことをしたせいですね……これは……はは……いや、ほんと……助かります」
しかし泥の壁の内側には、すでに、魔女が立っていた。
左手から血を流している、炎の魔女が。
「コーセーは使うなって言うから、内緒ね。ふふ……怪我してほしくないんだって」
「“四見釘”……」
「これくらいなら、パンクレスにもバレないでしょ」
「ええ、ちょっと力加減を間違えてしまったのですが……逆に丁度良かったですよ」
「炎魔法。“地を喰む拇印”」
ネルネリが言うが早いが、距離の離れた二頭の魔馬が、同時に発火する。その異常性に目を瞑り、ダックスは会話を続ける。
「しかし、良いのですかネルネリさん? 確かコーセーさんから……」
「あんな誰にでも出来ること。私やだよ。トギメイに任せた」
「あ、そうですか……」
2
「こっちから殺しに行ってやる」
そう言って全身から風を放つ魔法・“指針山”を保ちつつ、康生に接近するパンクレス。敵の常套手段である投擲を封じた以上、馬車を先に狙うことも考えたが、そうしない。無論自分の肩に斧を突き立て、今も投石をぶつけてきた下郎への憤りもある。
だがそれだけではない。挟撃を行ったはずが、いつまでも魔馬の姿が見えず、馬車の裏で何が起きているかも分からない現状。彼からすれば、不気味なのはそちらの方だった。簡単な相手から狙うという、これまでの人生で培った定石に倣った結果として、目の前の異能力者をまず消すべきと判断したのだ。
対する転移者、木差子康生は考える。
自分は武器を失い、遠距離攻撃の手段は失われたものの、第一目標────すなわち、自分を真っ先に狙うよう仕向けることには成功した、と。
ずる賢く鋭い野盗。しかし自らが優位に立っている時でなければ、その知性は十全に発揮されないということを、彼は知っていた。数ヶ月前の一戦で、『ワイアーム』によって斧を当てた時の、あの荒れよう。「俺様」という一人称。パンクレスは、上に立っていたい人間なのだと理解していた。
上下の関係でないと安心できない。自分が「嬲る側」でなければ。対等に殺し合う相手だと理解させれば、それだけで逆鱗に触れることになると、彼は知っていた。
そのうえで、投げつけた石を弾き飛ばす、パンクレスの魔法について思考する。確かに自分の安定択は無力化されたが、その魔法自体を恐れる必要は、ないのではないか。あくまでこちらへ近づくための弾除けにすぎないのでは、と。
わざわざ近づいてくるあたり、遠距離から攻撃・束縛する他の魔法と併用できないことは、明らかであった。加えて、パンクレス目線で馬車の方にも口封じしないといけない障害がおり、さらに警備が来る可能性もある今の状況。時間をかけすぎるのは、悪手と考えるのが普通だ。
ならば、最速で自分を殺すことの出来る手段を取る。康生はそう予想していた。
今の「風を纏う」魔法に、確実に意識を刈り取る威力があるか。「魔法」と「異能」のスピード感の差を実感したうえで、解除して他の魔法を使うという手段を取れるのか。自分を吹き飛ばすことで、地に落ちた「石」との位置関係を無作為に変えることを、許容できるのか。この三点が、パンクレスの選ぶ手を狭める。
それすなわち、斧。
接近後、必殺の間合いにて魔法を解除し、自分から奪った斧を叩きつけること────ここまで読んだうえで、男はシンプルな問題に行き当たる。
今の状態でそうされると、普通に打開策がなく負けてしまう、ということだ。
3
順当にことが進んだ上での決着。思考の過程は違えど、二人はその如何をほぼ同時に察し、それを片方は鮮明に表し、もう一方は努めて焦燥を隠す。より口角を上げ大仰に肩を振りながら歩くパンクレス。変わらぬ表情のまま、また同じように地面に転がる石を拾い、それを投げつける姿勢へと移行する康生。
「来い。お前がすでに詰んでるッてことをよォ……よおく確認したらいいさ。何度でも。何度でもな。楽しいぜ。だんだんと青ざめる獲物の顔を見るのが、俺は大好きなんだよ。知ってるだろ?」
康生がほどほどに力を込めて投げた石は、野盗から三十センチほどの距離でふらりとゆらぎ、その少し先で、完全に軌道を変える。それは前回とは全く異なる方向への転換であり、風の鎧の効力が、触れたものを「流す」先が、定まっていないことを意味していた。
ここで康生は、今までになかった顔を見せる。その後すぐにまた石を拾おうと屈んだために、その姿をパンクレスが認めたのは、ほんの一秒にも満たなかった。
しかし、彼にとってその悔恨と無力感に包まれた表情。またそれを覆い隠すために繰り返される、一辺倒の無駄な行為は、もはや愛おしくさえあった。崩された自己の優位。狩人と獲物の関係。その修復という悦楽。
それを傍目に、康生は懸命に脳を働かせていた。自分が思っていた以上に、“指針山”という魔法の射程は短いこと。風向きがパンクレス自身にも制御できない、または意図的に制御しておらず、効果がまばらであるということ。早々に勝負をつけたいはずの相手が、わざわざゆっくりと、そして威圧的に「歩いてくる」のは、つまり単純な話、走りながらは使えない、ということ。
これらを元に、投石をやめた彼が出した結論は、後ずさるふりをしながら、しかし少しずつ、横に動くことであった。すなわち、敵と自らの距離を取りつつ、また敵と馬車とを引き離す。さらに、位置関係を変えるのは、『ワイアーム』という異能を最大限活用するために、必要なことでもあった。
パンクレスにとってその様子は、さらなる興奮材料である。繰り返していたヤケクソの行為を止めたのは、石を拾い上げ投げるという一連の流れは、もはや致命的な隙となる。それ程に二者が接近していることを、意味していたからだ。
「賞賛に値するってヤツだなあコーセー。あの時もそうだ。お前くらい嬲り甲斐のあるのもいない。足りない頭で考えて! 足りない腕を振り回して!」
康生は何も答えない。じりじりと距離感を変えるだけであった。
「……クク。分かっているさ。お前が打てる手はひとつだけ。結局のところそこら辺に投げ散らした石を、俺様が魔法を解除したタイミングでぶつけること! だがどうだ? お前にとっちゃあ時間をかけるデメリットはないと考えていたんだろうが……最初の位置からは、もうこんなに離れちまっているんだぜ?」
「……」
「『ワイアーム』とかいう異能の素早さには驚いたけどよォ〜、これだけの距離の差があれば、確実に俺の一撃の方が先に入る!!」
「……近づいてくるお前の後ろで、石を少しずつ引き寄せ続けている可能性には気付かないのか?」
「なにっ?」
「風に身を包んで、多少なりとも音が聞こえづらいだろ?茂みに落ちた石の音を、正確に把握できていたと思うか?」
「……」
「お前の、エイヤアと手の動きに連動しなくちゃいけない欠陥品の魔法と、俺の異能は違うんだぜ」
「必死だな」
「!」
「ようやく重い口を開いてくれて嬉しいよ。俺様にはもう……フー……フー……命乞いにしか、聞こえない……!」
必殺の間合い。パンクレスが恍惚とした表情でその凶器を振り上げる。康生が隙だらけの相手に対して動かないのは、未だ解除されない風魔法の鎧に触れることで、自身の体勢が崩れるという、死に直結するリスクを重く見てのことであった。
「殺す……お前だけじゃない。この斧を振り下ろすと同時に!! お前の向こうにある馬車も同時に狙う! その通り、俺様の魔法は、腕の動きに同調する。だがそれはつまり!! 一度の動きで二点を攻撃できるってコトでもある!!」
「なに……」
康生は、ここで自身が大きな勘違いをしていたことに気づく。魔法を切り替える時に発生する時間差。それは魔法の特性────自分で魔力の式を組み上げ魔法という結果を出す、という仕組みのために、避けることはできない。
しかしその式の改善を、魔法に携わる人間たちが、考えないはずはない。自らの身振り手振りに合わせて魔法を使う。それはただ照準を合わせるためではなく、「身振り」そのものを式に組み込むことで、発動を簡略化しているのではないか。
自分が、単に無駄な行為だと考えたこれこそが、異能と魔法の速度感の違いを縮める、理法なのだとしたら。
斧を振り上げさせてしまった。ただそれだけのことで、全ての計算は狂ってしまった。そう理解した彼にあらわれた、一瞬の息遣いの変化は、パンクレスをさらに喜ばせた。
「分かってるさ……コーセー……お前は捨てられない。他人を見捨てられない。あの時もそう。今この時も!!」
今まで極力見せないようにしていた精神の色。それが溢れたことによって意図せず生まれたこの一拍は、男に覚悟を決めさせるには、十分すぎた。
パンクレスが垂れた涎を啜るその一瞬にて、康生は敵の真横。否、左後方に向かい飛び出した。
それは野盗が、また康生自身が信じて疑わなかった、絶対に馬車には攻撃させないという信念への、裏切りに見えた。
4
野盗パンクレス・オータムはここに来て大いに揺れる。守るべきものを捨てる事ができないと断じた康生が、しかし今その庇護の対象を、魔法という超暴力を振りかぶった自分の目前に、曝け出している。
後ろを取られるという想定していなかったシチュエーション。それは当然に危険であり、即座に振り返り、当初の予定通り「簡単な相手」から潰す事が定石。だがそれを無視して馬車を攻撃することで、康生の精神を、完膚なきまでに破壊できるとも確信していた。嗜虐性を大いに満たす相手に対し、男の合理は掻き乱され────そして、パンクレスは、自らの欲望を優先する。
「“指針山”解除────」
「『ワイアーム』」
ただ無遠慮にその刃が振り落とされたならば、今トギメイしか乗っていないその馬車は原型なく破壊され、中にいる青年も諸共に死んでいたであろう。
だが、二秒に満たない逡巡が、その結末を変えた。
パンクレスの右手に振りかぶった斧は、左後ろにいる康生に引き寄せられ、それはすなわち、その凶器を握りしめた手が、地続きの腕が、それを生やす身体が……能力の影響を受けるに等しかった。右後ろに向かって捻れるような体勢に変えられた野盗には、振り返る以外の選択肢は、すでに存在していない。だが無論、ただでは転ばないのがこの男。
「中位風魔法!! “浸透戟”!!」
体を翻すと同時に放たれる魔法は、康生の右脇腹を抉り取っていた。しかし自らの信念すらもコインとした賭け、それに打ち勝ったことで溢れ出る脳内物質は、彼に止まることを許さない。
この距離で再度“指針山”を使われることはない。当初想定していた戦い方に戻る。低く小さく。魔法の的を絞らせないように。クラウチングスタートの姿勢をとり、男はテータ・ディモシカの仇へと突進する。
パンクレスの視点で、これは全くの愚行であったと言って良い。確かに今この瞬間に関してだけ言えば、康生は守るべきものから攻撃を遠ざけた。
だが結果としては今、位置が変わり、身に纏う風の魔法がなくなった。それ以外の変化は起きていない。むしろ位置が変わったことで、馬車をパンクレスに近づけてしまっている。
また、康生がもし、先ほど投げつけた石を引き寄せるとしても、それは背後からの不意打ちではなく、目視確認できる脅威性の低い援護射撃でしかない。飛び道具除けという“指針山”の役割は、すでに終えているのだ。
依然として彼の目に、康生の全ては悪あがきとしてしか映らない。
「でももういい加減、終わらせないとな……」
パンクレスは最後にとっておいたデザートを食べる時のような、喜びと寂しさの共存する表情を浮かべ……再び死神の鎌を持ち上げようとする。
その時。康生の背後から、石が発射された。
彼のした『ワイアーム』の説明には、いくつかの嘘があった。
まず、生物は対象外である。
また、触れたことがある無生物でも、位置をある程度把握していなければ、引き寄せることはできない。故に、茂みの中に変えた今までの投石を再利用することは不可能に近く。この背後から放たれた石は、クラウチングスタートの姿勢を取った際に触れ、自らが飛び出すと同時に、後ろに弾いたものだった。
しかし、パンクレスの見え方は違う。本当に近くに引き寄せていたのか、と解釈する。石を振り払い、目を見開く。康生だけでなく、その背後に仕掛けられた罠すらも、見通すことのできるように。
だが、男の罠は、そこには存在していなかった。互いに斧と拳を振りかぶり、接敵するその時。隠し通した仕掛けが、作動する。
すなわち、パンクレスの、その振りかぶった右腕に突き刺さった────
斧、である。
「おあ……?」
骨にまで到達したその、二本目の斧。パンクレスの脳内に今まで一切存在していなかったそれに対し、しかし即座に解答を得る。
馬車に、積まれていたのだと。
「一度触れたものを引き寄せる異能」。なればこそ、身の回りのものをその対象としておくのは当然。地面に落ちた石は、そこに気付かせないためのブラフでもあった。位置関係を変えたのは、こちらから見えないように引き寄せるため。
木差子康生が初めて、笑みを浮かべた。
「斧が浮かび上がったら、俺が引き寄せようとしてるってことだから。ドア。開けてくれ」
ネルネリに頼んだはずが、戸を開けているのは、二日酔いで顔色の悪いトギメイ。康生はそれに対し、思わず表情を緩めていたのだ。
だが、パンクレスはそう思わない。その笑みは彼にとって、嘲笑以外の何者でもなく、完全な立場の逆転は、その精神に暗い影を落とし────そこにこそ生まれた虚を、康生は見逃さなかった。
雄叫びと共にパンクレスの顔面に捩じ込まれた拳は、治って幾ばくもないその鼻骨を再度、今度は完全に粉砕する。そして殴りながらも左手に引き寄せていた一本目が、筋繊維を断たれ握力を失った敵の手から滑り康生の後ろへと落ちる。
左からのパンチを受け、右前に『ワイアーム』で斧ごと手を引っ張られたパンクレスは、完全に体勢を崩す。そして仰向けに倒れそうになるが、そこは百戦錬磨の盗賊。なんとか踏ん張ろうと、全身に力を入れる。が……
「『ワイアーム』」
右の二の腕に突き刺さった斧が引き寄せられることで、より深く腕に食い込み、尋常ではない痛みを誘引する。いかにこの世界を暴力で生き抜いた人間であろうとも、限界があった。そんな姿を尻目に、康生は大きく振りかぶる。その手に転がった方の斧を引き寄せていることが、パンクレスからは、相手の身体に隠れて見えなかったが、ぱし、という音で、全てを察していた。
優位性の完全なる逆転。弱きを狩り、強きを避けてきたパンクレスにとって、それは初めて体感する出来事であり、対等な戦いにすら嫌悪を抱く彼に、強い恐怖を抱かせた。
「待ってくれ!! 私、は……」
それは本能からか、打算からか。錯乱し、なにかを訴えようとする、今や被捕食者となった狩人。
「お前がそういう奴かもってのは、仲間から聞いた」
その釈明を遮るように放った康生の言葉は、パンクレスに、しかしかすかな希望と、話し合う余地の可能性を与え、精神性のべたべたとした汗に塗れた顔を、叱られている最中、許されるのを待つ子供のように動かした。
「不思議なくらい、響かない話だったよ」
治りきっていない左肩に振るわれた斧は、今度こそ、完全にその左腕を切り落としてしまっていた。




