↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漂流世界に打たれた杭  作者: 百葉箱覗き
PR
10/42

10話 “信壊”シズルム

 

1

 

 「ねえ〜。持ち帰りは? テイクアウト……」

 「ほら言った。俺言ったからね。大丈夫かって聞いたからね」

 「はいはい入りますよ。どうせ二人なんか、帝都にいる限りどこでだって人目につくんですから……」


2


 「おいしい、おいしい」


 五百グラムステーキ四枚目に突入したネルネリを、とうに食べ終わって生暖かい目で見る男二人。ダックスが遠い目をしている。今日は彼の奢りだ。

 かなり上等な肉を使っているそうで、俺が今までネルネリに買った食べ物とは文字通り、桁が違う。

 しかし、入店前はあんなだったのに。料理が来た途端目もくれず……こいつ本当は、すごく簡単なやつなんじゃないのか?


 「……コーセーさん」


 死んだ目のダックスが話しかけてきた。この人もこの人で、さっきまでは元気に料理に関するうんちくを語っていたのに。こんなにしょげちゃって。可哀想になってきた。


 「転移者手当。もらったんですよね……?」

 「嘘だろダックス……」

 「忘れてください。冗談です。もう、今後のこと話しちゃいましょうか?ネルネリさん、まだ余裕そうですし……」


 諦念を湛える微笑だった。


 「あ〜……そうな。まずはどれを狙うかって話だよな」

 「いや、それよりもですね」

 「うん?」


 作戦会議ということだったが。


 「私たちパーティの名前、考えてみました」

 「!?」

 「『ダンジョン』の本場であるテオーやオルオットでは、冒険者という、危険地帯に潜入して資源を得る職業の方が、真面目にかなりの人数いましてね。彼らはまさに我々のような数人の集まりを『パーティ』と呼び、名をつけるのです」

 「なるほど?」

 「ですから、それに習ってみようじゃないかと……ちなみにシタン帝国から流出した元・騎士も、多くは冒険者になったと言われています」

 「ええ……」


 そんな形でこの国の哀しい過去に繋がってくるとは。


 「あ、おかわりお願いします」


 こいつはまだ食うし。


 「まあ、細かい話はいいけど。でも確かに、名前はあったほうが便利だよなあ。俺は特別こだわりもないし、ネルネリもこんなんだし。ダックスの案でいいんじゃねえか。どんなの?」

 「ええ! では、僭越ながら。私たち全員、うす暗い過去があって何かと『壁』を感じてきた人間でしょう?」


 まあ。確かに。俺も、病で動かない身体。変わり映えしない白壁に、不自由を強く感じていた。だが、しかし。


 「そんな切ない由来で決めるの?」

 「なので、単に“牆(かこい)”というのはどうですか」

 「渋すぎ」


 おかわり待ちのネルネリが噛み付いてきた。


 「まあでも俺はほんと、なんでもいいからなあ。記号だろ、記号。ネルネリは他にあんの?」

 「え……!」


 数秒の沈黙の後、魔女が口を開く。


 「……デスポイズンヘルフレアドラグーン……?」

 「じゃあ、“牆(かこい)”で」


3


 やけ食いするネルネリを傍目に、俺とダックスは予定していた議題へ突入する。


 「えー。“十壊器(じっかいき)”はその名の通り十個あるわけですが。居場所が分かるものは六つ。その内『エンレイア』はすでに回収済みで国内に保管されており……」

 「え、そうなの?」

 「はい。私も見たことがありますが、美しい流線形をしていました……どうせなら液体金属という性質も見てみたかったのですが、残念……」

 「あーあ。コーセーが変なスイッチ入れた」

 「俺が悪い?」

 「あ、失礼しました。それでですね、あとの四個は他国の管理下に置かれているか、途轍もなく危険な場所にあるか。なので、現状での入手は難しいでしょう」

 「え、そんなの取ってこいって無理ゲーじゃね?」

 「なので、狙い目は実質的に一つとなります」

 「……まあ、ポジティブに言えば、考える余地がなくて楽だな?」

 「それが一連の破壊兵器のうち最後に造られ、そして最初に戦史へ現れた“十壊器(じっかいき)”。最後の希望。最強の盾────」



 『“信壊(しんかい)”シズルム』です」



4

 

 「へえ、最後の希望っていうと、なんか素敵だなあ。その『シズルム』なら、わりかしゲットすんのも簡単なのか? あーいや……でもそれだったら、誰かに奪われちゃいそうなもんだ」

 「うーん……難しいですね。まあ言ってしまうとこの盾は、敵対国へ、プレゼントするために造られたのですよ」

 「なに、それは?」


 初手から様子がおかしいが。


 「せっかくの最強の盾なんでしょ? どうして敵にあげちゃうわけ」


 至極真っ当な疑問を、おかわり待ちのネルネリが投げかける。意外にちゃんと話聞いてたんだ。


 「理由はいくつかありますが、ひとつは単に、外交的政策における交換材料にしたんですね。戦争が始まる二年前、この『盾』は何点かの高名な武器とトレードされたと伝わっています。友好の印として」

 「二年後に戦争始まってるんだけど……」

 「そんなものです」

 「でも、すごい武器と交換ってことは、その……盾としての能力は、ホンモノなんだな。贈答用って言うから、もしかしたらそっち方面で問題アリなのかと思ったよ」

 「ええ。間違いなくこの『“信壊(しんかい)”シズルム』は、史上最高の堅牢さを誇っています。本体の硬度はもちろん、強力な巨大結界を展開することで、国ひとつ守り切る防御壁にもなる……しかし欠陥があるというのも事実で、それが敵国に送り込まれた、最大の理由でしょう」

 「もったいぶるねえ」


 「うるさいらしいです」


 「……うるさい?」


 「はい。大きな圧力がかかると酷く形を歪めて、軋む音を立てる。それは女性の絶叫を思わせ、受ける攻撃の規模によっては、山二つ向こうの街でさえ安眠できないほどの音量だったとか」

 「ええ……ネルネリでも寝られないんじゃないか?」

 「変なキャラに仕立て上げようとしないでよ!」

 「今にも壊れそうな、叫びをあげる盾。しかしその性能は他の追随を許さず……これ以外に他の“十壊器(じっかいき)”……特に、“境壊(きょうかい)”キングリードによる攻撃を防ぐ手段は、当時皆無だった」

 「……そ(・)ん(・)な(・)も(・)の(・)に、依存せざるを得ない状況を作るのが目的だったわけだ。この盾を渡した側からしたら」

 「その通りです。コーセーさん。それこそがこの『シズルム』の生まれた意義。『最後の希望』という異名の由来」


 護ることで不安を煽り、人々の安心を壊す盾。ぜんぜん素敵じゃなかったな。戦争において士気の低下が大変な影響をもたらすことくらいは、俺でも知っている。


 「なんか、その話を聞くと、いくらすごい盾だって言っても……あんま欲しくないね?」


 俺もそう思う。分かっていたが戦争兵器。ろくなもんじゃないぜ。


 「そもそもネタが割れていちゃあ、同じ使い方はもうできないだろうし。普通に盾として使うのも、どれくらいの力が加わると爆音を鳴らすのか分からないもんな」

 「ええ。バレずに贈答出来たわけですし、ちょっとやそっとでは『叫ばない』とは思いますが。とにかく、そういった理由で放置されているわけですね。まあそもそも戦争自体が減ってきていて、今の時代の戦いは、魔獣の討伐やダンジョンの攻略が主体。守るよりも攻める重視。軽装ですぐ戦線を離脱できるのが大事。などの思想の変化もありますが」

 「ふーん。まあでも良かったじゃんね? そんな需要がないようなものならさ、つまり手に入れるのはマジ簡単ってことだ!」


 ネルネリは説明してもらったあれこれを一気に片付けて、結論を出してくれた。確かに、大事なのはその一点だ。マニアのダックスには悪いが、俺にとっての目的は大聖女シエラの痕跡であって、“十壊器(じっかいき)”の回収はついで。武器にまつわる細かい事情など、「知らないことで起き得る」アクシデントを回避できるだけ、最低限あれば十分。「最初の仕事は楽なチュートリアル」。これさえ分かればそれでいいのだ。


 「いや、それがそうとも言えなくてですね。曰く付きとはいえ、“十壊器(じっかいき)”は伝説の兵器。入手しようとする者は、それこそ数年前まではちょこちょこいたんですよ」

 「え?」

 「……誰ひとり、生きて帰ってはいないそうです。『シズルム』の安置された『捨て子谷』では、今もたまに空を裂くような金切り声が聞こえるとか……」

 「おっ……」


 明らかに何かいるじゃねえか。


 「なので結局は危険ですよ。コーセーさん。出立は二ヶ月後、という風に王に伝えてあるので、それまでに……訓練! 生き残るため! 頑張りましょうね!」

 「えっ……」


 冷や水をぶっかけられたような気分でフリーズする俺を前に、神父ダックスはニコニコである。


 「明日朝四時集合!」

 「おかわりお願いします」

 「俺も! お願いします!」


 こうなりゃヤケだと、ネルネリに便乗して現実逃避のために頼んだステーキ。食べきれなくて半分ネルネリに食べてもらったのが、すごく情けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。