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34  ゲルタとエレオノーラ


シリー伯爵は長年、最大の反王家派閥だ。兵士の数も多くかなりの武闘派である。


王家の親衛隊として多くの騎士を受け持つモロー伯爵とは相対する立場にいた。

だが、シリー伯爵の愛娘のゲルタ・シリーがフェリカ・モロー騎士団長のファンで毎日のように騎士の訓練所に見学に行っている。


そうは言え、これだけで長年の反王家派閥を翻し、王家に準ずる姿勢を取る訳には行かない。



そう思っている所に、ルーゴ公爵家から使いが来た。

内容はレオトニール王太子殿下の政治の不適正を鑑みて、廃嫡するか、それとも婚約者選定のやり直しを要求する。そしてこの意見書を王家が反対の意を表明したら、手を取り合って新しい国を立ち上げようという主旨が書かれていた。


つまりはレオトニールに次の王ではなく、ルーゴ公爵にしろと詰め寄る所存のようだ。またはレオトニールを後押しする事が出来る侯爵の娘とは破談させようという目的なのだろう。

そして、レオトニールには力を削ぐような下位の娘を宛がう。そしてどちらも王家が取り合わない場合は武力で奪おうと書いていた。


この書簡にシリー家が賛成の意を表せば、ルーゴ侯爵は王家にこの要求を突き付けるつもりだろう。


シリー伯爵は手紙を執務室のデスクに投げ出して、額に手を当てる。

ルーゴ公爵には全くと言っていい程人望がない。


しかもレオトニールは手紙に書かれているような愚鈍ではない。むしろ王太子のレオトニールの政治手腕は、目を瞪るものがある。


「我が主と崇敬するルフィナ王太子妃を侮辱するこの手紙・・・ルーゴ公爵の口に詰め込んで来ても宜しいでしょうか?」


考えていたシリー伯爵の目の前に、怒りで震えながら手紙を読む娘のゲルタがいる。


最近益々トレーニングに励み、剣の腕前は父のシリー伯爵と遜色ないまでになっている。

その娘がここまで剣の道に励んでいるのは、ルフィナ・ロペスに出会ってからなのだ。


「ゲルタ、ルフィナ様はまだ王太子妃ではなく婚約者だ」


「知っておりますが、ルフィナ様を王太子妃にせぬレオトニールは廃嫡にすれば宜しいのです。しかし王太子妃はルフィナ様で決まっている」


ゲルタはレオトニールがルフィナと婚約破棄をするのでは? という噂を聞いているようだ。それについてゲルタはかなり憤慨している。


「・・・ゲルタよ、レオトニール殿下は婚約者を守る為に、敢えてその噂をそのままにしているのだろう。婚約破棄は考えてはいない筈だよ」

あまりのルフィナへの心酔ぶりに戸惑いながら、レオトニールの行動を説明し娘を落ち着かせようとシリー伯爵は優しい口調になる。


「なるほど・・・。かなりルフィナ様に執着されているご様子だったので、婚約破棄などないと信じておりましたわ」

ゲルタはさっきまで激しい表情とは打って変わる。その変わり身が怖く思ったシリー伯爵は、改めて

どうしてそこまでルフィナの事を尊敬するようになったのかを尋ねた。


「ヨークの森で恐ろしい魔物が私の前に現れた時、私はあれ程毎日剣術を学んでいたのにも拘わらず、逃げ出そうとしたのです。だが、あの方は私の前に立ち、震える手で木の棒を持って魔物の前に立ちはだかったのです。その時のご様子は女神の様に光が射し、私に力と勇気をくれたのです」


ゲルタはその時の事を思いだし、再び熱いものが込み上げ瞳が潤んでいた。


そんな娘の様子を見て、答はわかっているがシリー伯爵は娘が握り潰している手紙を指して質問をした。


「私がその手紙に呼応して、ルーゴ公爵に馳せ参じると言ったら、お前はどうする?」


シリー伯爵は娘の返答を前にゴクッと生唾を飲む。


「そうなれば、お父様とは道を違える事になるのでしょう」

娘の戦線布告にも似た、全身から沸き上がる闘志を向けられたシリー伯爵は、さっさともろ手を挙げて降参した。


元々ルーゴ公爵に付くには、不安要素しかなかった。それに愛娘に剣を向けられてまでルーゴ公爵に義理立てする恩義はこれっぽっちもないのだ。


「では、私は王家側につくが反乱軍を探るために呼応する返事をしておく。それでよいな?」


「ええ、王家というよりルフィナ様側に付く方向でお願いします」

愛娘から溢れんばかりの笑顔を向けられたシリー伯爵は、嘆息した。




これと同じような事が、他の高位貴族でも起こっていた。


コルト王国内で一二を争う財力と武力を誇るリッツ公爵家だ。由緒正しいリッツ家の屋敷は王城にも引けを取らない広さと絢爛さだ。

広大な庭園には池や野外音楽堂など様々な施設がある。


そのリッツ公爵の娘であるエレオノーラは、この豪華な建物の内装には似合わない行動で公爵を悩ませていた。

いつもおどおどして、魔力もうまく扱えず、喋る声も小さく背中を丸めて歩いていた。使用人にも陰で後ろ指を指されていた。


しかし、その娘が魔塔の主になりたいと自ら公爵に言って来たのだ。

「どうしたんだ? この前まで『ひっそり長生き』がお前の夢だっただろう?」

リッツ公爵はエレオノーラの伏し目がちだが自分を見つめる強い瞳に嬉しさと共に戸惑いもある。


「あの・・私は・・これまで人にどう思われているかばかり考えてて・・きっと何をしても人と違う事になってしまうのが・・・怖かった・・でも人と違う事をしちゃうのが私の個性なんです。だから、私の個性を生かせる所に行って精一杯頑張りたいんです!!」

最後の方は勢い余って、エレオノーラは息継ぎなしで一気に話してしまった。

さぞ、お父様は困った顔をしているだろう。エレオノーラが父の顔を見るとやはり口をポカンと開けたままだった。ただ、その顔に困惑はなく娘の成長を喜ぶ父の顔があった。


「・・・そうか。お前からこんなに自己主張されたのは始めてで驚いたが話はわかった。お前の意思を尊重しよう」


尊重するとは言ったが、まだ娘の魔力は弱く魔塔の主はおろか、魔塔に入る為のテストにも合格できないだろうとリッツ公爵は思っている。

彼女に出せる火力はせいぜいマッチのような小さな炎だ。

だが、自分の意見を言う娘を見て

こんなにも成長したのかと、感慨深かった。


嬉し涙が出そうになったリッツ公爵はハンカチをポケットから出そうとした時にルーゴ公爵からの読みかけの手紙を床に落としてしまう。


エレオノーラはおずおずとそれを拾い上げ父に渡そうとしたが、その手が止まった。

リッツ公爵は娘に読ませるべき手紙ではないと手紙をエレオノーラの手から取ろうしたが、引き抜けなかった。


「エレオノーラ、その手を放しなさい。それはお前には関係のないものだよ」


「・・・関係がない? いいえ

多いに関係がありますわ」

エレオノーラは手紙を引き抜こうとする父の手を払い除けた。


その行動と娘の声色が低く、別人のように背筋を伸ばし佇む姿に驚く。


「このルーゴという虫けら如きが、ルフィナ様の婚約を破棄を打診するとは・・・片腹痛いわ。まさかお父様はこの虫に・・いいえ虫に失礼ですわね、クソゴミにお味方するなんて思っていませんわよね?」


リッツ公爵は娘の変貌に瞠目するばかりで、答えられない。


「お父様、返事をなさってください」


「・・・ししししない。私は始めから王家に付くつもりだ」

初めて娘に気圧された公爵は、どもってしまう。


「良かったわ。お父様と意見が割れるなんて悲しいですもの。ではこのクソゴミの書いた手紙は燃やして宜しいでしょうか?」

リッツ公爵が、答える前にエレオノーラは手から火柱を立てて燃やしている。


「エレオノーラ、天井が燃える!!」


高温の猛火で手紙は瞬殺で灰になった。


(いつの間にあのような炎の使い手になったのだ?)

リッツ公爵が腰を抜かしそうになる。

「ああそうだ、お父様お願いがあります。ルーゴには一緒に王家を倒しましょう~って返事をなさっておいて下さい。もちろん挙兵の時はルフィナ様を貶めたルーゴは完膚なきまで叩き潰しますけど」


つい数分前までのおどおどしていた娘の姿はなかった。

ニヤリと笑う娘から出る真っ黒のオーラに、リッツ公爵は身震いした。


「お前がそこまで王家に肩入れしているとは思わなかったよ・・・」


父の言葉に眉間にシワを寄せるエレオノーラはすぐに訂正をした。

「いいえ、王家ではありません。私が尊敬申し上げているのは、ルフィナ様です。私に勇気と魔法と希望をお与えくださったのです。自信の無い私に、言葉と態度で私が進むべき道を示して下さったルフィナ様に、私は魔塔の主になって守ろうと思います」


「・・・・・」

リッツ公爵は魔塔のトップになる娘を今、垣間見た。



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