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29  王子は流れ星を数える(3)


ルフィナはレオトニールの許しを得て、天体観測に行く事になった。


友人のベネットとシルヴィアンから、当日の持ち物を書いたメモを渡されていたので、マリーと準備をしている最中である。


「ねぇ、マリー。枕やクッションは何に使うのかしら? ずっと上を向いていたら疲れるから、寝転がって見るのかしら?」


「鬱憤を晴らす為の物ですわ」


「・・? マリーの言ってる事が分からないのだけれど・・」


「沢山のお菓子や飲み物も必要になります。それからここに書かれている草むらで転げ回れる洋服となっていますので、こちらのキュロット式の洋服を準備しています」


「・・天体観測って星を見るのよね?」


ルフィナは自分の知っている天体観測とは違う見方をするのだろうかと不安になってくる。

だが、マリーが「きっと楽しいですよ」と言ってくれたので沢山の流星を見つけようと思った。


マリーとお菓子を選んでいる時に、レオトニールが部屋に来た。


「随分と楽しそうだね。ああ、例の天体観測は明日だったね・・」

レオトニールの感情が少々下がった。

「そうなんです。凄く楽しみで、もう何回も忘れ物がないか確かめているんです」

ルフィナがあまりにも楽しそうな様子に、レオトニールはさらに気落ちした。


(ワクワクするほど、僕に不満があるのだろうか?)

レオトニールには思い当たる節が山程あった。


「レオ様、私必ず沢山の流れ星を見つけて来ますね。きっと八つ以上見つけます」

ルフィナが恥じらいながら、頬を染めて言うが、レオトニールはうっかり流星群の『結婚が出来る』言い伝えを忘れていた。

人は強烈な話の方が記憶に残るようで・・・


「八つもあるのか・・? しかもそれ以上? そんなにも僕に不満が?」


マリーがその呟きを聞き付け、すぐに二人の会話修正を始めた。


「レオトニール殿下、この流星群の天体観測日に八つの流れ星を見つけると恋人同士は結婚できると言い伝えがあります。ルフィナ様はその為に気合いをいれて流れ星を探そうとなされているのです。努々(ゆめゆめ)勘違いなされませぬように」


マリーに聞いてレオトニールはルフィナの気合いを入れている様子を改めて見る。

途端にレオトニールの中の愛しいと言う感情が爆発した。


ベネット達のメモ用紙を見て持ち物を確認しているルフィナを、レオトニールは堪えきれず後ろから抱き締めた。


「僕との未来を考えて、天体観測に行きたいと考えてくれてたなんて・・・やはり君は最高だ。僕は君が喜んでいるのは溜まった僕への不満を発散しに行きたいのだと勘違いしていた。ああ、僕は愚かだ」


ルフィナはレオトニールが何を言っているのか分からなかった。

首を傾げて、「どうなさったの?」と聞くがレオトニールからの返事はない。

例の女性不信に陥るくらいに怖い話を聞いた後で、ルフィナの清らかな目的を聞けば、『天使』にしか思えない。

抱き締めた腕に自然と力がこもった。


「ルフィナが星を数えている時刻に、僕も星を数えているよ」

愛しいルフィナとせめて同じ事をしたいと思った。

ルフィナは耳元で囁かれ首までピンクに染まる。

「はい、私もできるだけ沢山の星を数えますね」


(ぐっ・・この可愛さ。他にこれほどまでに可愛い女性がこの世の中にいるだろうか? 否、いない。僕は断言できる)


レオトニールの思考回路が、ルフィナ一択になりかけた時に、レオトニールの背後に不遜に笑う人物が立つ。フェリカ・モロー騎士団長だった。

「そろそろ殿下、お帰りにならないといけません。陛下の引き継ぎで、人事院から人事管理に付いて決めて頂きたいと言われています」

女性ながらに素晴らしい筋肉を持ち主のフェリカ・モロー騎士団長に引きずられ、ポイっと馬車に乗せられていった。


あっという間の出来事で、呆然としていたルフィナだったが、ハッと思い出し明日の準備を再開した。





ルフィナはワクワクして、あまり眠れなかった。

あまりに酷い顔だったせいで、マリーにお小言を言われてしまう。

「お嬢様、小さい子供ではないのだから、ワクワクして前日に眠れなかったとかお止め下さい」


『お止め下さい』と言われても、眠れなかったものはしょうがない。

取り敢えず学校に行かなければと、目の下の隈を気にしつつ登校の準備をさっさと済ませた。


学園内は女子だけが異様に盛り上がっている。

しかし、男子生徒はどうもげんなりして元気がない。

その対照的な光景にルフィナは怪訝に思うも、男子生徒は星に興味がないのだろうと思った。


そもそも恋人ができるとか、結婚出来るという話はいかにも女性向きな話だと割りきって見ていた。




授業が終わり、男子生徒は帰宅準備を始めているが、女子生徒はカリムの丘での天体観測に行く準備を始めている。


校庭には学園が準備した幌馬車が、何台も並んでいた。


校舎が夕焼けで染まると、期待感は益々上がる。

ルフィナの隣ではシルヴィアンがお菓子の袋を確認中だ。

広げすぎだとベネットに叱られているが、シルヴィアンが気にする様子はない。


「高等部の女子生徒は校庭で、自分の名前が書かれた幌馬車に乗っ

て下さい」


校内放送の呼び掛けに、クラスの女子生徒が一斉に教室を出て幌馬車に向かった。


幌馬車の幌は草臥れた感じだが、中の座席には板の座席に可愛いクッションが並べられていた。


向い合わせの座席に8人ずつ座る。ルフィナ達は一番前の座席で並んで座った。


学園のある街中では石畳の道だったが、街から出ると途端に砂利道に変わった。

可愛いクッションは役に立たない程お尻が痛い。


すると、他の生徒達が一斉に鞄から家から持参したクッションや枕を取り出した。


「ルフィナも持って来たでしょ? お尻に敷かないとカリムの丘までもたないわよ」

ベネットが体に似合わない大きなクッションを取り出す。


「殴る以外にも、この時にも必要になるのよ」

シルヴィアンがほんわか話をするが、意味はルフィナに分からない。

「・・殴るとは?」


「あー、さっきまであった雲が晴れたわ! 今日は絶好の観測日よりになりそうよ」


シルヴィアンに聞き直したが、ルフィナの声は他の生徒の声に掻き消されてしまう。


お尻の痛みに耐えて、漸くカリムの丘に着いた。

空には沢山の星が、すでに瞬いている。こんなに沢山の星が見れるのは、市街地とは違いこのカリムの丘には光が少ないせいである。


ここからは市街地が遠くに見下ろせる。街はオレンジ色に輝いて夜景はとても綺麗だった。

ルフィナがこの場所に来るのは始めてで、夜景の美しさに心を奪われていた。


しかし、そのすぐ後ろで『わー』と歓声が上がり、そちらを振り向くと皆が夜空を見上げて、たった今流れた星に、手を叩いて喜んでいた。


「ルフィナ、早くシートの上に荷物を置いて星を見ましょうよ」

ベネットが大きく広げられたシートの上に座って手招きをしている。

ルフィナは流れ星を八つ数えるという使命を思い出し、ベネットの方に駆け出した。


幼い頃、お星さまに願い事をしようと、必死で流れ星を探したが一晩中見張っていても見つけられなかった経験がある。

勿論その時のお願いは『レオトニール王子の婚約者候補から外れたい』だった。


あんなに見つからない流れ星を探さなければならないのだから、ルフィナの気合いは半端なものではなかった。

勿論今日のお願いは『レオトニールと無事結婚出来ますように』である。


回りを見渡すと、みんな既にシートに寝っ転がって空を見ている。

ルフィナも慌ててシルヴィアンの隣に寝転がった。


ルフィナが空を見上げると運良く、すぐに星が瞬き流れた。

(あ、今流れ星を見つけたわ。まず一つ目・・あーまた流れた。凄いわ。あっ、また流れた。あれ?流れた?)


気合いを入れなくても星がどんどん流れる。

寝転んでから程なく八つの流れ星を数え終わった。


「ねぇ、私もう八つの流れ星を数えたんだけど・・」

ルフィナが隣にいるシルヴィアンを見ると、シルヴィアンとベネットは起き上がって、せっせとトレーに折り畳みの足が付いた所謂(いわゆる)ベッドトレーテーブルを出してその上に、お菓子や水筒を用意している。


ルフィナが起き上がって見ると、クラスの女子がトレーテーブルで大きな円を作って座っている。

「ほらぁ、早くルフィナもテーブルを出して座ろう」

シルヴィアンに促され、大きな鞄に詰め込まれたテーブルやお菓子を出して行くとベネットが手早くセッティングをしてくれた。


横座りをしている人もいるが、貴族のお嬢様なのに胡座座りをしている人もいる。


「さぁ、みんなコップを持って」

ベネットがコップを持って立ち上がり「かんぱーい」とコップと高く持ち上げると一斉に「かんぱーい」と飲み始めた。


ルフィナも注いで貰った飲み物を飲んだ。


飲み終えると誰からか自然に「ちょっと聞いてよ!!」と始まった。

そう、天体観測という名の『女性の愚痴大会』が始まったのだ。


この場での恋人や婚約者の悪口、文句、愚痴は身分制度は関係ない無礼講なのだ。

勿論この場で聞いた事は他言無用の鉄則がある。

もし、この貴族社会で全ての女性を的に回したくなければこの鉄則を守らなければいけない。


「この前、あいつったら他所の婚約者の胸ばかり見て話していたのよ。もう悔しくて」

「分かるわ、奴らの頭のなかには顔、胸、お尻しか見えてないのよ」

「私も婚約者がほしいわ。うちみたいな弱小貴族に来てくれる男なんていないのかしら」

「あら、うちみたいに高位の貴族に狙いを付けて来る男なんて、権力と金目当てで綠な男しか来ないのよ」


皆好き勝手に話し出すとて、熱くなったお嬢様が、クッションを婚約者の男に見立てて殴り出した。


「・・・殴るってこの事だったのね」

学園内では上品ぶった澄まし顔の高位のお嬢様でさえ、シルクのクッションを叩きつけて婚約者の悪口を言っている。


シルヴィアンがルフィナの背中をつんつんと突っつく。

「ルフィナには婚約者の不満はないの? あるのなら心の中に溜めないで吐き出しなさいよ」


(レオトニールの不満・・・)


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