17 友人(1)
ルフィナは王家の費用を横領した人物を探すべく、今日はレオトニールとドレスを作られたであろうお店に来ている。
「あらまぁ、ようこそいらっしゃいました、レオトニール王太子殿下。こちらは噂の婚約者様ですね。これからどうぞご贔屓にして下さいね」
出迎えてくれたのは、ボン・キュッ・ボン羨ましボディのカルメン・マッキーニ。真っ赤な唇は厚い唇にたっぷり塗られている。ふんわりカールした真っ黒な黒髪を豊かな胸にたらして人好きする笑顔で、二人を店の奥へ招き入れた。
彼女の迫力ある胸に、目がついついそこにいってしまう。
横のレオトニールも目を逸らしているが、チラッと見ていた。
男ってやっぱりあの『男は女のどこが好き?』に書いてあった通り1位:胸 2位:お尻のツートップなの?
ルフィナはカルメンの胸程育っていない胸を見てため息が出そうになる。
ルフィナはここに来た目的を思い出し、カルメンに尋ねた。
「あの、このお店で2週間前、王宮に納品されたドレスの事を教えて頂きたいのですが・・・」
ルフィナは事情を詳しく説明しながら、無意識に胸を隠すように猫背になった。
「クス。お嬢様あなたはこれからどんどん美しく大人の女になっていくわ。今はそのピュアな美しさに胸を張りなさい」
カルメン・マッキーニはルフィナの背中を豪快にパンと叩くと、長い睫がバチンと鳴るようにウィンクをした。
そして、ルフィナが背筋を伸ばしたのを見てうんうんと頷く。
「そう、それでいいわ。あなたは本当に素敵なレディよ。そうそう、ドレスの事ね。最近良く王宮から注文が入ってますよ。でもねぇ、最近納品されたドレスも、テレリューズ王妃殿下がこんなに胸元が開いた真っ赤なドレスを着られるのかしらと不思議に思っていたのよ」
カルメンさんは二週間前に納品したドレスのデザイン画を私達に見せてくれた。
確かに、恐ろしく胸元が開いた大胆なデザインで、しかもその裾には沢山の真珠が散りばめられた豪華なものだ。
「私達はドレスを作るけれど、パーティに出席するわけじゃないから、誰がどんな風に着こなしてくれているのか知らないのよ。これはテレリューズ様が着るドレスではなかったのね・・残念だわ」
カルメンはしょんぼりして、自身が精魂込めたデザインを眺めていた。
きっと王家に納品して、王妃様に着て頂いていると喜んでいたに違いない。それをルフィナ達が訪れた事で知ってしまったのだ。
なんだか、申し訳なくなってルフィナは声をかけた。
「そのドレスとても素敵です。この裾のデザインもダンスを踊った時にはとても華やかに広がるのでしょうね」
カルメンにいきなりルフィナは肩をぐっと掴まれて顔を凝視される。
「そうよ、そうなの。私のデザインは人が動いた時に花が溢れるように優雅に広がるのよ。ねぇ、王太子殿下、お願いがございます。ちょっと婚約者様をお借りできますか? 最近作ったドレスを試着して頂きたいのよ。いいでしょ? すごぉい、セクシーなのよぉ」
「セクシー?」
その言葉を言い直した殿下が、目を輝かせる。
とっても嫌な予感がする。
「貸そう。是非セクシーにしてもらいたい」
「ちょっと・・」
ルフィナはあっという間に、カルメンさんに引きずられて奥のドレッシングルームに閉じ込められた。
「んまぁ、この年にしては結構育っているじゃない。きっとレオトニール殿下にお願いしたらきちんと揉んでくれ・・」
「きゃーーー大きな声で言わないで、外に聞こえちゃう」
「このお胸はこうやって脇から持ち上げて、入れちゃうのよ。そしたらほらこんなに、セクシーに形の良い胸になるのよ」
「ほええーー」
「ほら、こんなに上向きのつんとしたお胸の出来上がりよ。いつでも殿下になめてー」
「だだだから、そんな事は言わないでぇぇぇ」
ルフィナはこんなやり取りを、ドレッシングルームの前に立っていたレオトニールに盛大に聞かれ、顔を真っ赤にされていたことは気付かないでいた。
カルメンは他のスタッフに指示して、ルフィナに合うヒールも用意した。それと化粧も・・
いつもと全く違う化粧の仕方に
ルフィナは目が釘付けになった。
小さなスポンジで丁寧に下地を塗っていく。
アイラインも屋敷の侍女は可愛らしさをアピールする引き方だけど、目尻を長めにそして、黒のアイラインの上にグレーのアイラインを重ねて大人っぽく引いていく。
「ほら、出来たわぁ。自分で見てどう?」
カルメンに言われて、姿見に映った自分を見ると、胸の谷間がいつもより大きく見える。でも、全然嫌らしくない。それは化粧の仕方がカッコいい感じの化粧だから嫌みな感じになっていないのだ。
「す・・すてき・・これ・・私?」
「もう!可愛いわ。そんな事言うなんて本当に好きになっちゃうわ」
カルメンが豊満なお胸にルフィナを抱き込む。
「そうそう、こんな事してる場合じゃないわ。首を長ーーくして待っている人がいるものね。ほら、見せておいでなさい」
カルメンさんに押し出されて、ドレッシングルームの扉を開けて外に出る。
「レオトニール・・どう?」
なぜか顔の赤いレオトニールは、目を見開いたまま動かない。何か一言でもいいから言って欲しいのに口は半開きで黙って見ている。
その様子はまるで・・呆れて見ているように見えた。
ぶつぶつレオトニールから聞こえる。
「・・あああ。・・・こんなのどうしたって無理だろう。落ち着け・・・否、落ち着く必要はない。・・・そうだ、このまま用意したあの塔に閉じ込めておけばいいんじゃないか?」
小声で時々何やら聞こえる。
「あの?・・レオ様?」
再び声を掛けるとレオトニールはバッと顔を上げて、いつもの優雅な笑みを私に向ける。
「うん。とても綺麗だ。でも少し胸元が寒いんじゃない? 他の男に・・じゃなくて、妖艶な美女はルフィナには少し早いような気がするよ」
「・・・そうか・・」
やっぱり大人っぽいのはまだ似合わないよね。綺麗になったかもなんて思った自分が恥ずかしくなってルフィナは俯いた。
「なんてお馬鹿さんな男なの? 綺麗になった女性を褒めることも出来ないの? 『他の男に取られたらどうしよう』なんて思う前に、男を磨いて絶対に取られないようにしなさいよ!! さあ、本当はどう思ったの?」
(え? 似合わなかったんじゃないの?)
レオトニールを見ると、片手で顔面を隠している。
ルフィナの視線を感じて、顔を隠していた手を下ろしてルフィナに向き直る。
「ごめん。初めから言い直す。ルフィナ、本当に綺麗だ。他の男に取られるんじゃないかと思って嘘をついた。凄く・・似合っている」
「・・っ」
ルフィナは顔がどんどん赤くなっていくのを感じた。
「首筋までピンクになるって・・理性・・無くす・・」
耳元で言われた言葉にルフィナはさらに全身が赤くなりそうだった。
「そのドレス、レンタルしてもいいわよ。そのドレスを着て今度のパーティーで私に嘘ついてドレスを作らせた犯人の主役の座を、ルフィナちゃんが奪ってきてよ」
「私が主役になれる訳ないです。でも、このドレスを着てレオ様とダンスを踊りたいです」
「・・くっ・・そのドレスでダンスとか・・理性が持つのか? よし、今度のパーティでカルメンの作ったドレスを着ている女を探そう」
本来の目的をうっかり忘れかけたレオトニールは、自分を見失わなかったようだ。
ルフィナは王宮に戻ると、カルメンから貰った最近王宮に納品したドレスのデザイン画を数枚を、侍女達と手分けしてドレスを覚えた。
護衛の騎士達にも覚えてもらおうと思ったのだが、一向に覚えられないのだ。馬の毛色なら、栗毛・尾花栗毛・栃栗毛・鹿毛等すぐに分かるのに、ドレスの色は違いが分からないというのだ。
『赤紫? 青紫? 全て紫に見えます』と全く役に立ちそうにない。
そこでドレス探しは、信頼出来る侍女数人にお願いをした。ここでも、ルフィナが幼い頃から信頼を高めて来た結果が多いに役立った。
大勢の王宮侍女が「ルフィナ様の力になりたい」といってくれたのだ。
学園ではルフィナは未だに、レオトニールの専用部屋に行っている。
トリスタン学園に入学前は、楽しい事を想像していたのに、お友達作りも儘ならない。
中等部からそのまま高等部へ進学する人が多い中、高等部からの入学者はとても少ない。なので、ルフィナが高等部から入学して入った時には、グループが既に出来上がっていた。しかし、何とか同世代のお友達を作るぞと頑張っていたところにこの隔離である。
しかも、教室でもレオトニールの婚約者という肩書きも既に広まっているらしくて、近寄ってきてくれる人がいないのだ。
大学の専門学部のザイラ様とはちっとも会えずにいるし、連絡を取ろうにも上手く伝わっていないようだ。
そんな中、化学と魔法学が合同授業をすることになった。
炎を小さく出し続けるのは難しく、これが出来ない生徒が続出したために化学の時間に魔法学を組み込む合同授業となったのだ。
「みんな、三人一組になって下さい」
この何人組を作れというのは、友人がいないルフィナにとって、恐怖の時間でしかない。
どうしようとウロウロしていると、背中をつんつんとつつかれる。振り向くと二人の女性徒が立っていた。
一人はベネット・アレクセイ。子爵の娘だ。彼女は小柄で黒い髪と黒い瞳の女性で、リスのようにちょこちょこ良く動き、とてもハキハキしている。
もう一人はベネット嬢とは対照的な大柄でおっとりした、伯爵の娘のシルヴィアン・ライド。赤茶色の髪で青い瞳をもっている。
この二人が私に何の用なのだろう? と戸惑う。
ベネット嬢がルフィナに微笑み掛ける。
「私達と一緒のグループに入っていただけませんか?」
黒い瞳を大きく開いて、ルフィナを誘ってくれたのだ。
このままでは、一人あぶれてしまう所だったのでとてもありがい。
「私一人だったので、とても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」
声を掛けてくれた事に感謝して、素直に頭を下げた。
「まぁ!ホントね、ベネット。ルフィナ様って私達とも普通にお話してくれたわ」
おっとりさんのシルヴィアンが驚いたように目を見開いてベネットに言う。
「そうよ。噂なんて当てにならないんだから、真相はしっかりと確かめてから判断しないといけないのよ」
二人が納得し合っているが、ルフィナにはその噂とやらが分からない。
「あの、その噂って私の噂ですよね? どんな噂があるのか教えて頂けませんか?」
二人は顔を見合わせて、ベネットが頷く。
「普段からのルフィナ様を見ているので、私は全く噂を信じてはいませんでしたが・・・ルフィナ様は平民差別が酷く、貴族でもご自身よりも身分の低い爵位の方は屋敷に呼ばれ蔑まれたと聞いた事があります」
「・・!? 私してないわ」
(なにそれ? 私、前世は王女もしてたけど平民だった事もある。そんな事絶対にするわけない!)
ルフィナは心の中で叫んだ。
「そうね。ルフィナ様が入学する前から、まことしやかに囁かれていた噂なのよ。だから、クラスの人達も戦々恐々と遠くから見ていたんだけど、みんなも気が付いてきてるわ。噂が間違っているって」
そんな噂が流されていたなんてルフィナは全く知らなかった。
(通りで私が側にいくと、皆さんの顔がひきつっていたのは噂のせいだったのか・・
しかも、入学する前からだなんて、誰が流したのだろうか?)
ルフィナは一人納得するも、このまま知らずに過ごしていたらどうなっていたのかと恐ろしくなる。
「噂があったのに、声を掛けてくれてありがとう」
ルフィナは二人の勇気に感謝した。
「うふふ。いいんですよぉ。私もちょこっと気になっていたので、ルフィナ様と一緒のグループになれて本当に嬉しいですわー」
シルヴィアンがゆったり笑う。
「あの、出来たら私の事はルフィナと呼んでいただけたら嬉しいのですが・・」
ルフィナがいうとすぐにベネットが答えてくれた。
「じゃあ、遠慮なくルフィナ!」
「はい、ベネット」
「あーん、出遅れましたわ。では私もルフィナー」
「はい、シルヴィアンよろしくね」
二人が笑ったのを見てルフィナも笑う。
(やっと私にも同級生のお友達が出来ました)




