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16  私が犯人?(2)


ルフィナは現在、図書館の本に殺傷能力の高い魔法を掛けたと、疑われてもおかしくない状況に陥っている。


このまま行けば、冤罪で絞首刑かそれとも良くて死ぬまで牢獄。


「何でもいいんだ。気になった点があったら全て思い出して欲しい」

メルクリオがルフィナの無実を信じて一生懸命に救おうとしてくれている。

本当に感謝しているのですが・・・何と言うか・・ルフィナは困惑している。

(本好き同士というだけなのに、ここまで信じてくださるなんてとても嬉しい・・んですが先程から私の真隣に座って手を握るのは、なぜに?)


「ちょっと、なんで僕の妻の手を握っているんですか」


「まだ、婚約者ってだけで妻ではないだろう」


ルフィナは今二人が言い争っているのを張り倒したいくらい、ウザく感じていた。

そんなどころではない。ルフィナの目の前には絞首刑へと繋がる階段が見えているのだ。


二人が煩くて、思い出しそうになった違和感がなかなか形にならない。

綺麗な顔の二人が残念すぎる・・

・・・きれい・・!


「・・・あー!! ずっと感じていた違和感を思い出しました!」


ルフィナはレオトニールとメルクリオの間で立ち上がって、すぐに二人の間から抜け出す。

そして、テーブルを挟んだ二人の真正面に座り直した。


「私この地学の本を家に持って帰って読んだ時に、本が新しくて

すぐに閉じてしまって読みにくいなって思ったんです。どこにも開きグセの無い綺麗な本だったと思います」


三人はテーブルに置かれた本を見つめる。


「確かにこの本はホルストイ・ジャールブ著の『蠢く地下』という3ヶ月前に新刊された本を図書館が仕入れた新しい本だが、ルフィナの前に数人が借りて読んでいる筈だ。新品は有り得ないだろう?」

メルクリオは、本が開かないように手に取り眺める。


「でも、確かに新しくて・・それに、今その本に裏表紙に付いている図書館のカードは私が見た時はもっと綺麗で汚れて無かったと思います」


今見ている『蠢く地下』の地学の本に貼ってあるカードは少々黒い鉛筆の粉が掛かっているように煤汚れていた。


「それと、背表紙の記号のシールが貼られていなかったような気がするのですが・・しっかりと思い出せなくて・・」

すごく大事な事だけど、思い出せない。

ルフィナは自分の記憶力の無さにもやもやした。


「ルフィナさんがこの図書館で借りて、新しい本じゃないかと思ったのは他にもあった?」

ルフィナの記憶が失われないように慎重にメルクリオ様が聞く。


「はい、他に二冊ありました。

一冊はテール・ド・カルマン著の『新説コルト王国の歴史』という本です」


「ああ、それね。それも確かに新書が最近出たので、取り寄せたばかりだから新品と変わっても分からないね」


「それともう一冊。マダム・ローズ著の『本音が聞きたい・・』・・その・・」


(しまったぁー。その本の名前を思い出しても、言えない。私ってば()りに()ってなんであんな本を借りたのぉー)


「本のタイトル忘れたの?」

レオトニールが首を傾げて、ルフィナが答えるのを待っている。


『本音が聞きたい。男って女のどこが好き?』


これが借りた本のタイトルだった。

(こんなのレオトニールに聞かれたら、破廉恥女子として認定されてしまうじゃない)

ルフィナは言葉に詰まった。


「ブフォ、あー・・そうだった。あの本だね」

笑い声を漏らしたメルクリオが真っ赤な顔のルフィナを見て、ひたすら堪え笑いをしている。


「確かに君が今言った三冊に魔法が仕掛けられてしたよ。つまり犯人は図書館の本と入れ替えても君が気が付かないように、新しい本を君に持ち帰らせた。そして、犯人は学園から離れた場所で堂々と本に細工をしたわけだ」


メルクリオはルフィナが新しいと感じた本のタイトルを言わせて答え合わせをしたかったのだ。


つまり、本のタイトルは知っていた筈。ルフィナはメルクリオの意地悪な一面を思い知った。

(ぐぬぬ・・乙女になんて事を言わせるのだろうか)


ルフィナはあの本を借りるのに、一週間も悩んだのだ。でもレオトニールが何を好きなのか知りたくて、勇気を振り絞って借りたのに、それを知られてしまうなんて・・

(私、一生の不覚)


ザイラ様に相談して、一緒に着いていってもらって借りたのに・・


「ねえ、もう一冊の本のタイトルを教えてよ」

レオトニールが執拗に聞いてくる。


「もう分かったから、いいですよ」

メルクリオがこれ以上ルフィナに恥を掻かさぬように、話を終わらそうとしてくれる。

でも、それが悪かった。

「何故、二人だけの秘密にしようとするんだ? 怪しい。ルフィナ、教えてくれ、一体なんて言う本を借りたの?」

捨てられそうな子犬の顔で聞いてくる。

どんな顔をされても言えないときがある。それが今だ。


「レオトニール殿下、申し訳ございません。淑女の矜持に関わる事ですのでご容赦願いとうございます」

心を鬼にして、キューンと鳴く子犬にピシャリと撥ね付けた。


(ごめんね・・レオトニール。流石に言えません)


横でクククと笑うメルクリオは本当に意地悪な顔で、要注意人物だとルフィナは認識した。




ルフィナはこの所、休み時間は必ず教室にいて、長い休憩時間や昼休みは必ずレオトニールの部屋にいる。なのでザイラとも長く会っていない為に少し寂しいと感じていた。

ルフィナと反対に毎日確実にここでルフィナ会えるのでレオトニールは機嫌がいい。


そして、今日もレオトニールは公務をこなしながらルフィナと話をしている。

一度に沢山の事が出きるなんて、本当に器用で、出来る人なのだと感心していた。


「凄い量の書類ですね。レオ様の仕事量は社畜並みの量ですけど、他の人に代わってもらう事は出来ないのですか?」


「あー・・陛下の代わりの重要書類ばかりだから他の人には任せられないんだよ・・そうだ、この書類の計算が合っているかどうか先に見てくれないかな?」


以前社畜だったルフィナは、そう言われると仕事スイッチが入る。

それに、そろばんを習っていたルフィナは暗算も得意だった。


私はエア算盤を机で弾きながら、どんどんと計算を進めていく。

「うん? 王妃様のドレス代金が多いような気がするのですが・・?」


「え? 男の僕には、ドレスの代金が分からないんだけど、教えてくれる?」


レオトニールは立ち上がって、私が作業しているソファーの隣に座る。

「ほら、レオ様ここ見て下さい」


私は一枚の書類を見せながら説明を加える。


「いいですか? 王妃様の御公務は年間70回前後です。先代王妃様はそれに合わせてドレスをお作りになっていますが、テレリューズ様は毎回ドレスをお作りになられるのではなく、着回しをされています。しかも少々金額も安い物を作られていましたが、ここ2年は飛び抜けて金額が増えていらっしゃいます」


明細書を見ながら、レオトニールが眉間にシワを寄せている。


「母はこんなに沢山のドレスを持っておられない筈だ。一体どうなっているのだ?」


前世のお金で言えば、一着100万円のドレスを70回分作ったようになっている。


王妃様の御公務に合わせてドレスを作っているようになっているが、実際には王妃様のもとには届けられていないドレスが山のようにあるのだ。


「くそ!アンネッタ・ルーゴ公爵夫人が関わっているに違いない」


レオトニールはアンネッタの仕業と決めつけて怒っているが、ルフィナは違うような気がする。

「レオ様、きちんとお調べにならないといけません。この明細に書かれているお店はどれも、アンネッタ様が嫌う少々デコルテの開いた服を専門に作っている所です。きっと他の者の関与をお疑いになった方がよろしいかと思います」


「あの派手好きな公爵夫人なら、なんでも着そうじゃないか?」


「あの・・アンネッタ様はお胸が少々小さいので、デコルテの開いた大胆なドレスは選びません。しかもこの店は豊満なお胸専用のドレスのお店といっても過言ではございません」


「なるほど、そう言った事情もあるのか・・」


レオトニールが私の胸を見る。


「レオ様・・何見ているのですか?」

ルフィナにジト目で見られたレオトニールが、我に返って目を彷徨わせた。


「いや・・何となく」


ルフィナも自分の胸を見る。普通より少し大きめだと思うけど・・いや、この頃太ってきたから、その贅肉なのかな?


「と、ととにかく、このドレスの行方を探すほうが先決です。次の王家主催のパーティーに出席する予定ですので、この店で作られたドレスを着ている人物を探しましょう」


本来夜会やパーティーが苦手なルフィナが、王家の費用を横領した犯人を探す名目とはいえ出掛けるのは珍しい事だった。

本に魔法を掛けた犯人も分からず、このまま学園生活の休憩時間をここで過ごす事にストレスが溜まり、爆発寸前の発散でもあったのだ。


インドア体質のルフィナでも、こうも屋敷と学園の往復だけでは限界がきていた。


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